侵入者
翌朝…
【ミク】のことを考えていたアリアはやはりというか全く眠ることが出来なかった。
だというのに今日は朝から神殿の本殿内がかなり騒がしい。
「何かしら…」
アリアは着替えて部屋から出て、騒がしくなっている本殿の中心部へ向かった。
中心部である礼拝堂に近づくにつれてどんどん騒がしい声が大きくなってくる。
「まってくれ!」とか「話を聞いてくれ」とか弁明する言葉が聞こえてくるのだが、それに混ざって「こんな格好で深夜に来ておいて何を言うのだ!」という声や「罰当たりなやつらめ!」などという声も聞こえてきた。
どうやら侵入者のようだ。
侵入してきたものたちは必死に弁明しつつ助けを求める声も聞こえてくるから、神官達に見つかり魔法で縛りあげられているのだろう。
「誰かしら…バカね。しかも深夜に来るなんて怪しいですって言ってるようなものじゃない。」
「だよねー」
後ろから同意の声が聞こえてきて振り替えるとクリスが立っていた。心なしか元気がないような…というかやつれてるような気がする。
「おはようクリス。なんか疲れてる?」
「いや…うん…アリアは気にしなくて良いよ」
クリスはため息をつきながらアリアから視線を外して遠くを見つめていた。
「そ…そうなの…………あのねクリス、昨日の事なんだけど…」
「ああ…昨日はちゃんと話すこと!って言ったけど、焦らなくて良いからね。」
クリスはにっこり笑顔だ。
アリアは急かしてこないクリスに感謝して、一緒に礼拝堂に向かった。
◇◇◇◇◇
「「これは…」」
「「酷い」」
礼拝堂に入って二人の口から出た言葉はこれだった。本当に一言で【酷い】である。
祈りを捧げる神聖な礼拝堂が血で汚れている。壁には焦げ跡まである。
そして神官達は怒り狂い、侵入者と思われるもの達を魔法で壁に縛りつけている。中には縛りつけるだけでなく、足に魔法の蔦を絡ませて宙吊り状態にされているものまでいる。
「侵入者だし、みんなが怒るのは分かるけど…なんでこんなに乱暴なのかしら?いつもはもう少し穏やかに解決してる気がするんだけど…」
アリアは不思議そうに首をかしげて周りを見回した。
(昨日アリアが落ち込んでた件で僕に尋問してる最中に侵入者達が入ってきたからなあ。皆かなり気が立っていたからそのまま怒りが侵入者達にいってしまったんだろうなあ……ごめんね侵入者たち)
クリスは悲惨な目にあっている侵入者たちにそっとあやまっておいた。侵入しているものなのであやまる必要はないのだが。
「さて…誰に聞いたら今の現状が把握できるかしら?」
「とりあえず体格のいいやつを縛りあげてるエミリーに聞いてみようか」
クリスはそう言って、自分と同じ副神官長であるエミリーのところへ向かった。
通常は神官長の下には神官しかいないのだか、このルミナス神殿にはアリアがつとめる神官長の下に5人よ副神官長を設けている。
かなり広い神殿敷地内なので、神官長だけでは守りきれないだろうからという理由で副神官長という役職が生まれたのだ。
今の神官長であるアリアは一人でも守れるくらいの魔力があるのだが、一人で気負いする必要がないというのはとても気が楽なので、この体制はこのままにしておくつもりである。
「あれ...近づいて大丈夫かしら…?」
エミリーの方を見てアリアが言った。クリスがエミリーの顔を見ると
「うわぁ」
と声をもらした。
侵入者を縛りあげているエミリーは、真っ黒な笑顔だった。
~国の破滅まで、あと2日~