彼女は前世の親友
アリアはぼーっとしながら商店街をとぼとぼと歩いていた。
隣にはクリスが心配そうにアリアを時折見ながらゆっくりと歩調をあわせて歩いてくれている。
(ミクだった…
殿下の思い人の彼女は間違いなく私の前世の親友だった【ミク】だ。
どうして分かるのかなんて説明できない。
でも分かった。転生していたのは私だけじゃなくてミクもだったんだ。
ああ…なんで!なんであなたなの!
よりによってなんで殿下の思い人なの!
一緒の世界に転生しているなら、もっと平和的に再会したかった。また友達になりたかったのに。
殿下の思い人じゃあ…
そんなこと出来ないよね…)
アリアは頭の中が破裂しそうになっていた。大好きな親友が転生していることもそうだが、よりにもよってアイン殿下の思い人、つまりはいずれ城に呼ばれるということ。アリアのいた場所に彼女が行くということ。
そして…神殿が見捨てようとしている城に住むかもしれないということ。
アリアは前世の親友を守ってあげられなくなってしまう。
しかし陛下へ婚約破棄の書類と共にそちらと縁を切る宣告の手紙を送ってしまっている。
今さら撤回など出来ない。
早く身軽になりたいからと、直ぐ様書類と手紙を陛下へ届けたことをアリアは後悔した。
◇◇◇◇◇
ぐちゃぐちゃと考えているうちに神殿の本殿へ戻ってきていた。
「……ア。アリア!」
クリスに大きな声で名前を呼ばれてハッとそちらを見た。
「なに?」
「なに?じゃなくて、もう神殿に帰ってきたんだよ!…大丈夫?」
「うん…」
「全然大丈夫じゃないね…とりあえず今日は何も考えないでゆっくり休んで。明日ちゃんと僕に全部話すこと!いいね!?」
「うん…」
アリアは聞いているのかいないのか分からないような返事をして、自分の部屋へ向かった。
「殿下の惚れ込んだ女性がアリアの高鳴りの原因の人だったのか。それに気がついてからアリアの様子がおかしくなったんだよね…ちゃんとケーキは食べてたけど。」
クリスはカフェに誘ってしまった事を少し後悔しながら部屋へ戻った。
夕食にも顔を出さず、部屋に閉じ籠ってしまったアリアを心配して、他の神官達は昼間一緒に行動していたクリスに真っ黒な笑顔で尋問したのはまた別のお話。
◇◇◇◇◇
同日深夜…
神殿敷地内の商店街の一角に黒いローブを身につけた10人あまりの集団が潜んでいた。
その中で一番背が高く体格の良いリーダー格と思われるものが昼間アリア達が訪れていたカフェを指差すと、半数がカフェの屋根の煙突から中へ侵入していった。
残りの半数はリーダー格のものと共に神殿の本殿の方へ向かって行った。
~国の破滅まで、まだ3日~