国営龍宮マンション
とある村に国営龍宮マンションがあった。ここでは生活保護受給者のみが暮らしているという。このマンションについて様々な噂が飛び交っているらしい。
筆者は貧困ルポライターとし、興味がある。実際に向かってみることに。
村のはずれにあるマンションだ。駅から山道を三時間以上歩き続け、ようやく到着。
見た目は普通のマンションだったが、入り口から監視カメラが多く、緊張してきた。管理人に言うと、なぜか航空なみの検査を受け、ようやく中に入れた。
一階はシェアスペースらしく、広々とリビングがある。他にもコインランドリーや図書室、ジムや風呂、サウナまである。
一瞬、筆者もいいなと思うほどだったが、部屋の全部に監視カメラがついているではないか。風呂やサウナもだ。
「まさか……」
急いでトイレに向かうと、トイレにも監視カメラ。その上、個室にも一台一台監視カメラや盗聴器まで置いてある。冷や汗が出てくるほどの監視社会だ。
リビングに戻ると、AIロボットがいた。人型で、顔は宇宙人みたいだったが、どういうことか聞いてみる。
『生活保護受給者など、税金納めていない怠け者です。監視されて当然です』
「へ、へえ……」
AIロボットの無機質な声に耐えきれなくなり、テレビをつけると、国の借金や財政難の話題だった。生活保護受給者を現物支給にし、こうしてマンションで生活させている為、コストが跳ね上がっているという。
「だろうね……」
現金支給の方が圧倒的に手間はかからない。しかもその金はスーパー、飲食店などに流れる可能性大だ。貯金はできないからだ。
「なあ、AI。だとしたら、こんなマンション、なんの為にやってるんだ?」
『それは労働者のためのガス抜きと、政治家の票作りです』
「へえ……」
上を見上げると、監視カメラと目があう。ますます居心地悪くなり、食堂に逃げると、ここの住人が昼飯を食べていた。
そのほとんどが老人だった。若い人もいたが、風呂にも入ってなさそうな容姿で、あきらかに病気を持っていそうな雰囲気だ。背筋も曲がり、後ろ姿だけは老人と大差ない。
しかも、食堂で出されているメニュー、昆虫食や3Dプリンタで作った肉、村人の残飯で作ったスープだった。変な匂いもする。筆者は思わず鼻をつまむ。
「なあ、君。こんな生活、幸せかい?」
思わず住民の若者に声をかけた。風呂に入っていないのか、若者の肩にはフケがつもり、体臭もよくない。病気で風呂に入れないのかもしれないが、監視カメラを拒否している可能性も否めない。
「いいや。刑務所の方がマシだと思う」
若者の細い声、聞いていられなくなった。
一年後、なぜか犯罪率が跳ね上がり、刑務所がパンク状態だと報道されていた。多くは貧困に陥った若者が強盗や闇バイトに手を出し、捕まっているのだという。
確かに刑務所、国営龍宮マンションとの暮らし、筆者もどちらがマシかよくわからない。そういえば刑務所って現物支給みたいなものだよなぁ。




