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ソルティメルヘン短編集〜めでたし、めでたし〜  作者: 地野千塩


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現物支給浦島太郎

 むかし、むかし、ある所に浦島太郎という青年がいた。


 本人が青年だと言い張っているので、そういう事にしておこう。実際の彼の見た目はヨボヨボの老人だった。


「俺はな、亀を助けて竜宮城という場所にいただけだ。ほんの数日だ。なんで俺はこんな老ぼれになっているんだ?」


 浦島太郎の主張はそうだったが、誰も信じるものはいない。何か幻覚を見ている可能性もあった。


 結局、浦島太郎はメンタルの治療を受けながら、生活保護を受ける事に。手続きも複雑で、役所から追い出されそうだったが、例の竜宮城の幻覚を聞かせると、役所の職員も納得したらしい。こうして生活保護がスタートしたが、村人の視線はさらに厳しくなった。


 怠けてパチンコに行っている、税金で焼肉を食べていると中傷され、結果、生活必需品は現物支給となった。


「ああ、ありがたい。こんなお米が食べられる……」


 世間の噂と打って変わり、浦島太郎は現物支給で受けたものを感謝していた。


 ◇◇◇


 ここは村にある唯一の病院だった。竜宮ホスピタルという。


 働いている看護師の乙姫はすっかり荒んでいた。


 病院の屋上でタバコをふかしながら、愚痴しか出ない。


「やってらんねぇ。クソ仕事辞めてー!」


 院長の方針で過剰医療をやっているおかげで、休日返上で働いていた。


 特に生活保護の浦島太郎はいいカモだ。必ず金が入るので、必要のない検査や手術をしまくっていたのだ。


「はぁ。正直、うちみたいな悪徳病院にとっては、生活保護受給者っていいお客さんなのよ……」


 乙姫は良心が痛みつつも、さらにタバコに火をつけた。最近は生活保護受給者に現物支給となったそうだが、各種利権が群がり、あっという間に貧困ビジネス化したらしい。人間の欲は果てしない。弱者を食い物にする者が必ず現れる。まるでハイエナ。彼らの現物支給、唱えている人はお花畑かもしれない。


「はぁ。看護師やめようかな。この仕事は食いっぱぐれないけど、さすがに……」


 乙姫はタバコをふかし続けたが、心は全く晴れなかった。


 最近、浦島太郎に感謝までされた。「優しい看護師さん、白衣の天使みたい」と言われたが、現実は全くそんな事はない。むしろ浦島太郎を食い尽くそうとするハイエナ一味だろう。


「ごめんね、浦島太郎……」


 その乙姫の声は浦島太郎に届かなかった。


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