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ソルティメルヘン短編集〜めでたし、めでたし〜  作者: 地野千塩


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働きアリの本音

 僕は働きアリ。子供の頃からずっと、両親が経営しているの居酒屋で働くいた。


「いらっしゃい!」


 今夜も営業中だった。美味しいお酒やお料理を準備して開店すると、キリギリスくんのグループがいっぱい押し寄せた。


「いやぁ、アリくんのところのお酒は美味しいね」

「最高だ」

「演奏したい!」


 キリギリスくんたちはお酒を飲ん酔い潰れていた。居酒屋には明るい声と音楽が満ちる。


「キリギリスくんたち、お酒ばっかり飲んでないで働きなよ」


 口ではそういうが、本音ではそう思っていない。キリギリスくんたちの生活保護費はほぼうちの店に入っていく状態だし、正直、お客さんとしてのキリギリスくんは優秀だった。酔っ払うが、節度はあったし、ツケもしない。


 そんな折、国の制度が変わってしまった。国が一億総労働者というスローガンを打ち出した。「アリとキリギリス」という労働賛美のプロパガンダ小説も流行り、誰も彼もが働いている状態だった。


 そうなれば幸せになれると思っていた。誰もが働いたら、生産性がアップし、お金も増え、豊かになれるだろうと思っていたが、実際は逆だった。


 労働で忙しいキリギリスくんたちは滅多に僕の店に来なくなった。他の昆虫たちも同様で、お店の売上が落ちた。


 みんな将来何があるかわからから、貯金と株式投資に忙しく、お酒なんかにお金を落とす余裕がないらしい。


 それに安く人を使えるので、企業は設備投資をしない。技術革新や研究も遅れ、我が国は諸外国に比べて生産性がダントツで低いという。


「はあ。ウチの店も閉めるしかないね」


 結局、僕は両親から受け継いでいた居酒屋を手放し、転職活動も頑張ったが、市場では安い労働力の奪い合いが起きていた。人手不足という割には、労働人口は右肩上がりで、僕の転職先もなかなか見つからない。低賃金だが楽な仕事ほど、学生、主婦や老人などで奪い合いが起きているらしい。


「こまったな。だったら、キリギリスくんもずっと働かないで、居酒屋に来て欲しかった……」


 本音を漏らすが、我が国は「アリとキリギリス」の物語に洗脳されていた。誰も僕の主張は聞いてくれない。


「きみ、働きアリだろう? 転職期間といえども、こんなブランクがあるの? ちゃんと働いたら? キリギリスみたいに冬に飢え死にするよ」


 面接官にも笑われた。

 

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