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ソルティメルヘン短編集〜めでたし、めでたし〜  作者: 地野千塩


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セルフ出家桃太郎

 桃から生まれ、鬼対退治も成功した俺。しばらくヒーローだった。何でもできると、全能感しかなかった。


 そんなある日、育ての親でもある爺さんと婆さんと食事をとっていた。


「そういえば、桃太郎。これからどうするんかね?」


 婆さんが聞いてきた。


「そうだぞ。いつまでも鬼退治とか言ってる場合か。就活しなさいよ」


 爺さんが求人票を見せる。


 困った。正直、鬼退治専業で仕事したい。きびだんごの販売も飽きてきたし、あれは仲間のキジやサルのが上手いんだ。


「わ、わかったよ!」


 俺は適当に誤魔化し、家か逃げる。鬼退治に行くために体づくりもしないと。腹筋や素振りなどに励む。


「はぁ、いい汗出てきた」


 ちょうど休憩中だった。村人がざわざわと騒がしい。鬼でも出たのか。すぐに村人が集まる広場へ向かう。


「みなさん! 聞いてください。このオニコロリというスプレーを使うと、一瞬で鬼が倒せます! もちろん子供でも女性でも老人でも誰でも簡単に使えるんです!」


 都会から来た技術的者が、鬼退治用のスプレーを宣伝していた。最初は疑っていた村人だったが、本当に誰でもすぐに鬼を退治できた。同時に俺の仕事がなくなった。


 結局、爺さんと婆さんに勧められ就活をしてみたが、技術革新の波がきていた。鬼退治だけでなく、事務職などもなくなり、職安は人がいっぱい。その割にまともな求人は少ない。俺も何社も受けたが全く歯が立たない。


 結局、鬼退治で培われた体力を変われ、工事現場勤務が始まったが、ブラックだった。外国人労働者が多く、殴ったり蹴られたり虐められていた。


「そんな卑怯な真似はよせ!」


 鬼退治をしていたぐらい正義感の強い俺。外国人をかばい、パワハラ上司をぶん殴っていたが、ブラック企業は倒せなかった。


 あっという間にクビになり、職を転々。しかも転職するたびに待遇は悪化し、過労死寸前だ。


「お寺さん、俺は出家したいですよ」


 職場の近くにあるお寺に相談にいったが、住職は力無く首をふる。なんでも若者の宗教離れが深刻で、このお寺も存続の危機にあるという。


 次は神社に行ったが、似たようなことを言われた。ブラック企業の被害者を救う方法もわからず、お祓いをするしかできないという。


 キリスト教の教会にいっても同様だった。何かキラキラした雰囲気の大学生に「大丈夫。神様は君にも賜物を与えてる! それをつかってお金稼ごう!」と妙な励ましをされるだけだった。


 大昔は修道院もあったらしい。社会に適応できない特性の人間も引き取り、写本や奉仕などさせ、俗世間と切り離していたようだが。


「まあ、本当に宗教自体に力がないから。うちの教会も本当のお金がないんです。若者の宗教離れは深刻で……」


 牧師にもそう言われ、どうやら宗教に救いを求めるのは違うと悟った。かといって、またブラック企業に行く気力もない。


 結局、俺が選んだ道は引きこもり。爺さんと婆さんの泣き声を聞きながら引きこもってる。


「でも、まあ、これもある意味出家って感じでは?」


 俗世間から切り離された子供部屋。誰も侵入できない聖域。好きなラノベを写経し、時々マインドフルネスもする。今世の引きこもり、案外宗教じみている気がする。お布施はゼロ円。それは宗教と違う点だ。


「桃太郎、お願いだから出てきて!」

「そうだよ、桃太郎!」


 爺さんと婆さんの悲鳴が聞こえるのも、宗教とは違う点だが、俺は満足だ。


 さあ、今日も坐禅をくみ、この聖域で愚かな夢でも瞑想しよう。

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