金太郎と無敵なクマ
ある村に金太郎という怪力少年がいました。とても強い。なんでもできる。特に村人を襲いにやってきたクマをボコボコにするのが、金太郎の役目でした。
「おりゃー! クマども、かかってこい!」
今日も金太郎は叫び、クマを投げ飛ばしますが、倒しても倒しても新しいクマがやってきます。
「なんで? なんでこんな里にまでクマがいっぱいやって来てるんだ?」
金太郎は首を傾げますが、よくわかりません。
◇◇◇
今から二年前のこと。村役場では会議が開かれていました。
村の財政が悪化し、どこから削ろうかという議題でした。
「やっぱり弱者を切り捨てるしか無いよなぁ」
金太郎の父・白太郎は言います。白太郎は村長をしていましたが、村の財政難に毎日胃が痛いです。
「でも、村長。それはリスクがありますよ。やけになった弱者が無敵化する怖れがあります」
「だったら、セキュリティを強化すればいい。そうだ、うちの金太郎は強い。息子に無敵な人の相手をさせとけ」
ということで、弱者切り捨て政策が決定し、各種福祉やこども食堂、フードスタンプなども廃止され財源も確保されました。
勤勉に働いている村人たちのやる気も向上し、一見、村は平和になりました。めでたし、めでたし。
◇◇◇
「俺にはもう失うものはない! 福祉もねぇ! フードスタンプも消えた! だったら最後にひと暴れさせてもらう!」
クマが叫び暴れています。
「ちょ、待て! 落ち着いけ!」
金太郎はクマを相手にしていますが、なかなか手強いです。もうクマには失うものなど無いですからね。
「しかしなんでこんなクマが暴れているんだ? 財政は良くなって平和になったはずじゃないか?」
金太郎のその疑問はずっと消えません。いくら考えても村の大人たちは教えてもくれません。
「なんでだ?」
毎日、金太郎飴のように同じ疑問を投げかけているだけでした。




