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スピ沼ポリアンナ

「大丈夫です! ポジティブ思考で何でも良い面だけ見ていますから! ポジティブ! ポジティブ思考で大学入試も突破します!」


 クライアントのS子はそう言って微笑んだ。S子と向き合うカウンセラーの私は、苦い表情を出す事を必死に堪えた。


 実はS子のカウンセリングは初回だ。S子の母から「娘がスピリチュアルにハマり、ポジティブ思考で現実を見ません! 引き寄せの法則で大学入試も突破すると言い困ってます。勉強しろって叱ってください!」と泣きつかれた為、こうして仕事中だったが、疲れた。


 初回はとりあえず話を聞くだけだったが、今までの患者の傾向を考えても、スピリチュアル沼を抜け出すのは難しい。ポリアンナ症候群も発病しており、カウンセリングは長期になるだろう。


「先生、ポリアンナ症候群ってなんですか?」

「そういう童話があったのよ。何でもポジティブに解釈する少女の童話が。でも、それは童話だから良いの。現実でポジティブ思考を拗らせていたら、単なるお花畑でしょう」


 助手に質問されたので、いろいろと答える。


「そっか。スピリチュアルを辞めさせるのは聖書が良いらしいです」

「それはよく聞くね。でもあれも結構辛辣なことが書いてあるから。今の段階でS子に読ませるのは危険よ」


 そう言うと、私は聖書をめくった。確かにこの本はS子を目覚めさせる劇薬になりそうだ。スピリチュアル、偶像崇拝の危険性も詳細に書かれ、ポリアンナ症候群など一発で消えそうだが。


「そもそも何でポリアンナ症候群になるんですか?」

「S子ちゃんの場合は、何でも過保護のお母さんに管理されて無気力感もあるでしょうね。そこからのスピリチュアル沼だと思う」

「そっか。無気力感あると、自分で人生切り開く事を諦めるんだ。で、スピリチュアルにハマったのも誰かに幸せにして欲しいらかも?」

「そうでしょうね。ポジティブ思考だけでいるのは、究極の受け身ですから。別に童話のポリアンナは受け身ではなかったけど」


 助手と話すうちにS子の問題の根も見えてきた。今後のカウンセリングの方向性は、一つでも良いので自分で決めた事を実行させ、成功体験を積み上げるのが良いだろう。


 再び私は聖書をめくる。宗教の本だと思ったら、「恐れるな!」と自立を促すような言葉も何回もあった。


 もし神が存在するのなら、人間の内にある力を一番信じ、応援しているのかもしれない。それは決して依存させる態度ではないだろう。カウンセラーとしても見習う所だ。酷いカウンセラーだと依存させ、お金を巻き上げる人も珍しくないから。


「そうね。S子ちゃんも無力じゃない。自分の足で立てるわ」

「僕もそうだと思います。彼女が自立できるまで応援しましょう」

「ええ。私達はS子ちゃんの応援団ね。S子ちゃんは決して弱い存在じゃないわ」


 その事に気づけばS子もスピ沼から脱出できるだろう。私達もS子を見守り、その明るい未来も信じる事が一番良さそうだ。

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