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ソルティメルヘン短編集〜めでたし、めでたし〜  作者: 地野千塩


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ギフテッド一寸法師

「お父さん、お母さん、僕の身体はなんでこんな小さい? 一寸しかないじゃないか」


 ある日、気づいた。なんで僕は他の子供に比べて小さいんだろう。それに小さいだけでなく、じっとしてられない。椅子に座ってられないし、漢字の読み書きもできない。


「それはあなたがギフテッドだから」

「お母さん、何それ?」

「特別な才能があるって意味よ。あなたは天才。普通と違うのが魅力よ。そうだわ、これからはあなたのこと一寸法師と呼ぶから。かっこいいでしょ?」


 母に一寸法師と呼ばれるが多かった。実際、人と違う個性をもった子供が成功しているケースもあると聞いたし、そう呼ばれると悪い気はしない。


「そっか。そうだね。僕はギフテッドなのかも?」


 母の鵜呑みにし、すくすくと成長していたが、なぜかちっとも天才らしい活動ができない。それどころか生まれ持った適性、どんどん他人に指摘され、迷惑をかけているようだった。気づくと周囲の人に嫌われてる。悪意はないのに。本当はみんなが大好きなのに、一人も友達ができなかった。


「あれ? どういうことさ?」


 気づいたら、とても生きづらくなっていた。就活しても、どこにも内定が出ない。絵や小説のコンクールも全く歯が立たない。科学実験をしても、何にも発明ができなかった。


 気づいてしまった。僕は別にギフテッドでもないってことに。人と違う欠点を持った僕に、一寸法師と名付け、母は自分自身を慰めていたのだろう。それにギフテッドだと言っておけば良い点もある。息子の特性に向き合わなくてもいいから。要するに現実逃避だ。


 その後、僕は母に絶縁されながらも、病院に行き、障害者手帳もとり、福祉とズブズブの生活だった。福祉作業所に行くが、誰もが生きづらそう。自称ギフテッドもいっぱいいたが、成功者はいない。そう、ギフテッドなんてそんなもん。


「僕は円周率の数字を延々と言うことができます。すごいでしょ?」


 福祉作業所で自慢できる僕の特技なんてそんなもの。他にも水音だけでトイレの種類がわかったり、味と匂いだけで野菜の産地を当てるギフテッドもいるらしいが、実生活ではなんの役に立っていないという。社長もいないし、アーティストも発明家もいなかった。福祉士達の生温い視線が居心地悪い。


 そんな僕、ようやく障害者雇用で内定がでた。飲食店の裏方だ。主に皿洗いをするが、最低賃金という待遇。まあ、作業所の十倍もの時給だから、それだけでも金持ちになった気分になるから不思議。ちなみに障害者年金はいろいろと基準が厳しく審査がおりない。生活保護もそんな感じだ。


「君、ギフテッドなんだろ? すごいね」


 初出勤の日、上司が気を使って言ってくれた。腫れ物みたいに見ている。合理的配慮とかわからない。かといって「差別だ!」と騒がれるのも怖がってるのが本音だろう。


「いえ、実生活では何の役にも立ちませんよ。お金にもなりません。僕は普通になれる方が夢ですかね」

「え、そうなの? 本当に天才とかじゃないの?」


 上司の大きな声が響く。この上司、普通の価値の高さ、よくわかってないようだ。


「天才なんかじゃないですよ。ええ、普通になりたいですね。普通になれる打ち出の小槌の方が欲しいよ……」

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