事務職プリンセス
あるところに貴族の娘がいた。名前はアリス。何不自由なく暮らしていたが、昨今は貴族へに風当たりも強く、女も働けという風潮なので、仕方なく就活をしていた。
「げ、保育、介護、警備、宿泊、飲食、工場の求人ばっかり。低賃金のぬるい仕事を見つけようと思ったのに、何これ?」
アリスは市場の需要を見ながら愕然とした。
今までは貴族のプリンセスとし、甘やかされていた。そんな仕事なんてすぐに見つかると思ったが、求人を見ながら冷や汗しか出てこない。
かといって貴族の中ではさほど身分も高くないアリス。縁談がくるかもわからない。三つ年上の姉はいきおくれ、仕事も見つからず、引きこもりニート化していた。
「しかも事務職の倍率、こんなに高いの!? 図書館司書とか低賃金なのに、なんでこんなに応募が殺到しているの!? え、秘書って実質的に顔採用!?」
何のスキルもなく、自慢できるものは血筋しかないアリスは、とりあえず事務職を希望してみたが、想像以上の狭き門だった。アリスのようなボンクラ貴族令嬢がこぞって応募する為、自ずと狭き門になってるらしい。
「なるほど。給料は低いけど、簡単な仕事って奪い合いなのね。人手不足なんて嘘だわ。余ってるところは余ってる」
そんな現実を突きつけられたアリスだが、いくら応募しても事務職の書類選考突破とならず、職安には介護や警備を勧められ、病み始めていた。
「女の社会進出とか嘘じゃない。簡単な仕事に女が殺到してるだけ。もしかして割を食っているのは男? 弱者男性やうちのお姉さんみたいに引きこもりやニートが生まれるのもこんな市場原理も影響しているのかしら」
とはいえ、本当に姉のように引きこもりニートになるのは問題があるので、とりあえず飲食店のホールスタッフになったが、お局の激しいいじめを受け、一週間で退職代行を使って辞めることに。
「はあ、常に求人が出ているような飲食店とか、相当な地雷だったのね……」
そんな経験もあり、さらに事務職に憧れる。もう事務職員になれたら、死んでもいいとすら思う。
そこまで思い詰めたアリスは魔女に頼り、事務職内定がでる魔法をかけてもらった。結婚資金も注ぎ込んだ。貯金は八割以上減ったが、これでようやく夢が叶う。
「あぁ、憧れの事務職……。本当に嬉しい!」
そして毎日笑顔で通勤していたが、時代の流れは残酷だった。
技術革新があり、事務職は人口知能ロボットに置き換わるという。よっぽどの意欲とスキルがない限り、事務職はさらに狭き門と化す。最近では国一番の貴族でも事務職になるのは難しいと言われてる。学歴をもつ女でも、全く歯が立たないらしい。
こうして、労働意欲もスキルもないアリスは事務職を首になった。
「そんな……。どうしてこんなに事務職って狭き門なの?」
結局、再び魔女の元を訪れた。また大金を注ぎ込み、事務職内定をもらった。
「あぁ、幸せ。私は事務職員になれて本当に幸せ!」
一方、魔女は呆れていた。いいお客様(※カモ)なので、何も言えないが。
「そんなに事務職員になりたいかねぇ……。介護や工場とか相変わらず人手不足なのに。女も社会進出するなら、男同様に汚くてキツい仕事を受け入れたらいいんだよ。この労働市場のミスマッチ、いつ解消するんかね?」
魔女はぼやくが、またお客様が来た。
「ねえ、魔女。玉の輿に乗って一発逆転したいです。魔法をかけて!」
欲深い女たちの要求、魔女もウンザリしてきた。




