ペアローンラプンツェル
結婚後のラプンツェル は自立していた。フルタイムで働き、副業や投資もこなす。人々は「しごできラプンツェル 」と噂するほどだった。
同じプリンセス仲間のシンデレラや白雪姫は専業主婦となり、夫に養われていたが、無職のニートだとバカにしていた。
「あんな受け身のプリンセスにはなりたくないわ」
そんなある日、新しく塔が建てられた。この国で一番大きな塔で、そこに住むことはステータスだった。ラプンツェルの夫も新しい塔に住みたがっていたが、お金の問題があった。
「だったら、あなた、ペアローンで新しい塔を買ったらいいんじゃない?」
「そうか。君は仕事もしているし、ローンを受けやすいかもしれない」
さっそくペアローンを組み、新しい塔を購入した。かつてラプンツェルが住んでいた塔とは、雲泥の差だった。
「あなた。見て。こんなに街が小さく見えるわ」
「そうだな。見下ろすと気分いいな」
特に塔からの眺めは最高だ。毎日眺めても飽きないほどだった。インテリアも豪華。専属コックの料理も最高だ。
しかし、それは最初の三年だけだった。幸せな暮らしも慣れ、いつのまにか日常化した。塔の眺めはいいが、登るのも面倒。トイレや風呂も遠く、家の中を移動するだけでも、ちょっとした運動になるほどだ。ジム代は浮いていたが、良いことかはわからない。
「なんでこんなに不便な家なんだろう。トイレに行くのに十分もかかる……」
次第に不満が降り積もっていき、夫婦仲も冷え切っていた。
残ったのものはペアローンだけ。ラプンツェルも返済義務があったので、なかなか離婚しにくい。夫婦仲が冷え切っているとはいえ、別に夫は不倫もしていないし、家事にも協力的だ。夫を一方的に悪者にし、ラプンツェルだけが得する離婚も不可能だった。
再び、塔の上から下を眺める。
「ちっとも綺麗じゃない……」
その上、もっと高く、綺麗な塔も売りされていた。この塔の価値は下がり、今では誰も憧れていない。ステータスも簡単に蒸発してしまった。
「また、長い髪を塔からたらそうかしら?」
ラプンツェル は独身時代のロマンスを思い出し、再び同じことをしてみたが、王子様など来ない。今の髪の長さだと寸足らずだ。今の塔はあの時より高過ぎる。
「まったく、どこまで不便なのよ。この家は」
そう、残ったものはペアローンだけだった。




