低望み姫と野獣
むかし、むかし、ある国にお姫様がいた。容姿端麗な姫だったが、義母や義姉たちの嫉妬を受け、婚活を始めても「高望みwww」と笑われる。いつしか姫は自信を失い、何も望まなくなっていた。そんな姫に国民は低望み姫と嘲笑うようになった。
そんな姫だが、縁談は絶えない。隣国の王子様や王族からの縁談は日常的に届いていたが、まわりの目が気になる。高望みだ、見身の丈を考えろという義母や義姉の声が耳に染み付き、全く消えない。
「そうよ、私なんかが高望みしたらいけない。六十歳のジジイで、野獣と言われている男に嫁ぐわ」
そんな選択をしてしまうほどだった。この男、野獣と呼ばれるほど醜く、実際、貧乏で金遣いも荒く、暴力も振るうような男だが、姫はそれでもいいと思った。結婚できればなんでもいい。
こうして野獣の元に嫁いだ。野獣が実はいい人だった、姫の愛で野獣は変わったというご都合主義展開もなく、毎日、暴力を受け、ひたすら耐える日々だった。
「でも、でも……。こんな私だもの。高望みしたらいけない」
そう言い聞かせて、耐えていたが、ある日、野獣が病死してしまい、姫は街中に追放された。
これからは一人で仕事をしないといけない。姫は最低賃金の求人ばかり見ていた。
「こんな私、高望みしたらいけないわ。身の丈にあった無難な仕事を選ばないと。そう、高望みしたらダメ。職安のスタッフさん、どう思います?」
「あなた、愚かじゃないかしら。本当は貴族の姫としてあらゆる権利を持っているのよ。それに高望みって何? 目標や理想を持つこと自体、何も悪いことじゃないわよ」
職安のスタッフからは高待遇の求人を見せられるが、どうも自信がない。
「あなたみたいな若い求職者多いのよ。身の丈にあった仕事を選ぼうとして、わざわざ劣悪な環境を選んでしまって、不幸になっているパターンをよく見たわ。結局、人の目が怖いんでしょう」
「へえ……」
「幸せになっていいのよ。人の目なんてどうでもいいじゃないの」
何度も明るい言葉をかけられた。姫の頑な思い込みも、少しほぐれてきた。
「この呪いは解けるかしら?」
姫は自分でもわからない。しかし一つだけ分かった。野獣との結婚は失敗だったということ。後悔してる。野獣そのものではなく、自分自身に嘘をついた過去に。
「本当は王子様と結婚したかったな……」
思わず本音が溢れてしまったが、職安のスタッフは否定せず、静かに頷いていた。




