頂きマッチ売りガール
「マッチは要りませんか? 便利ですよ」
冬の街、リーリは一人、マッチを売るが全く売れない。
リーリはもう二十歳だ。児童養護施設も出て、なんとか自活しなければならないが、売り物のマッチは全く人気がない。今時、こんなレトロなマッチは売れないだろう。ライターという便利なものがある。
ライバル企業の営業マンは、今流行りレトロ喫茶に売りこみ、オリジナルデザインのマッチが人気だそう。さらに勝ち目がない。
「でも、待てよ。ちゃんとマーケティングして、ターゲットを明確にしよう。私のような若い女からマッチを買うのはスケベ心があるおっさん。でも、嫌らしい事されるのも困るわ」
という事でターゲットは、金は持っているが、家族、恋人、友達、趣味もなく、善良でギバーなおじさんに決定。
さらに競合他社と区別化するため、「可哀想」な状況やストーリーを作り、同情買いも目論む。大嘘だが、母が病気で入院中でお金がないというストーリーもつくった。
「おじさん。マッチ買って」
精一杯甘い声を出し、ギバーばおじさんにマッチを買わせる事に成功した。
それでもリピートしてもらわないと困る。リーリはおじさんにどれだけ助かったか伝え、時には涙を見せた。
「こんな私のマッチを買ってくれるのはおじさんだけだよぉ」
弱々しい健気なキャラも作り、おじさんにいい夢を見させた。
「ふふ、チョロい。孤独で無趣味なおじさん、チョロすぎー」
しかし、その後、リーリは脱税が発覚し、おじさん達からも詐欺だと訴えられた。
当然、捕まり牢屋へ。牢屋の中ではカツ丼も出て、案外コスパはいい。
「ねえ、看守のおじさん。リーリの事助けて?」
「そんなぶりっ子しても騙されるんぞ。被害者に謝れ」
看守は騙されず、心の中で舌打ちする。看守はターゲットかた外そう。代わりに取材に来た記者をターゲットにし、自分の都合のいい記事をかかせた。おかげで世論ではリーリへの同情も多く、逆に被害者が叩かれているらしい。被害者田叩きはさらに盛り上がり、この事件も「頂きマッチ売りガール!」というタイトルで映画化されるともいう。
「ねえ、看守さん。ここから出して?」
「ダメだ」
やはり看守には全く歯が立たない。刑期も決まり、五十歳まで牢屋の外に出られないという。若さを失った時、ようやくリーリも被害者達と同じ気持ちになれるかもしれない。