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ソルティメルヘン短編集〜めでたし、めでたし〜  作者: 地野千塩


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ブルシット・ジョブ・働きアリ

 僕は働きアリ。本当は趣味をしたいけれど、仕方なく時給千円で働いていた。


「つまんねー仕事」


 今日もついつい愚痴をこぼしながら仕事をする。アリ族のリーダーが見つけた食糧を巣まで運ぶだけの業務だ。なんのスキルもつかないし、体力と時間だけが食われる。


「なあ、この仕事ってなんか意味があると思う?」

「さあ、ないんじゃない? 誰がやっても同じさ」


 同僚に質問しても、同じ意見だった。


「それに研究者のアリたちが獲物を早く運ぶテクノロジーを開発したらしいよ。これで僕らは楽になれるかも?」


 そんな噂を聞き、新しいテクノロジーには期待していた。これで労働時間が減るだろうと思ったが、そんな予想は裏切られた。


 より生産性をあげられると、アリ族のリーダーが言い出し、隣村まで獲物を探すようになってしまった。


 おかげで全く仕事が減らない。それどころか増えている。せっかくアリ族の研究者が車や船などを開発したのに、どういうことだろう。楽になったはずなのに、仕事量はなぜ増える?


 獲物も簡単に手に入るようになり、価格も落ちた。僕ら働きアリも美味しい肉が安く手に入れられるようになったが、全くありがたみもない。


「毎日、つまんねーな」


 相変わらず愚痴しか出ていないが、キリギリスが労働市場に参入してきた。


 正直、足手纏いになりそうだから、キリギリスはずっと音楽でもやって冬に餓死してくれた方が良かったんだが、僕は新人教育係になってしまい、余計な仕事が増えた。


「キリギリスくん、ちゃんとやってくれよ」

「えー、わかんない。この車ってやつはどう動かしたらいいんか?」


 ただでさえ仕事にウンザリしているのに、キリギリスの教育のせいで余計に疲れた。


 それなのに時給はキリギリスと同じ。しかも効率よく終わらせているアリ達の時給は据え置き。チンタラ仕事をし、残業までやっているキリギリスは逆に残業代まで出ていた。


「なんだよ、この理不尽さは」


 仕事をすればするほど損をし、効率化など考えても無駄だ。逆に役に立たない仕事の方が儲かっている。


「さあ、アリ族のみんな! 歌って踊ろうぜ!」


 カマキリ族のアイドルは何の生産性もないが、ファンのアリ族が貢ぎ、億万長者らしい。演技も踊りも微妙だが、カマキリ族はルックスだけはいいので、それだけでキャーキャー言われている。おかげで音楽家のキリギリス族が失業し、労働市場に来てしまったというわけだ。


 そんなカマキリ族やキリギリス族をを見ていたら、本当にバカバカしくなり、仕事の手も抜き始めた。無能なキリギリスの教育も適当だ。キリギリスがミスをしても、スルーすることが増えた。同僚も似たような態度だったし、罪悪感はない。


 結局、アリ族の生産性は最下位になっているという。テクノロジーの進化はしているが、相変わらず仕事量は減らず、サボっても勤勉に働いても、時給は千円のままだった。来年は正社員のリーダー職になれる予定ではあったが、サブスク状態でこき使われるだけだろう。役職というラベルがつくだけだ。バカバカしい。


「アリくん、仕事さぼってバイオリン弾かないか?」

「いいね! サボろう!」


 今ではキリギリスたちと一緒に歌って踊っているが、ちゃんと職場には出勤しているし、タイムカードは押している。仕事するフリだけは、立派にやっているつもりだ。

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