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ソルティメルヘン短編集〜めでたし、めでたし〜  作者: 地野千塩


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働きアリの反乱

 働きアリの僕は、毎日が不満だった。


「部長、なぜ働かないアリがいるのです? キリギリス族が働かないのはなぜですか?」


 そう、問い詰めたが返事はない。相変わらず重労働で低賃金の仕事をしていた。


「まったく、働かないアリもキリギリスもずるい。なんで俺たちは損をしているんだ?」


 仕事が終わると居酒屋に行き、酒を飲みながら愚痴をこぼす。今日は友達の陰謀論者のアゲハ蝶子と同席したが、面白い話を聞いた。


「この世の支配者が不当にアリ族を虐げているのよ」

「へえ?」

「つまり私たちは悪くない。支配者が悪いのよ。それに外来種のキリギリス族は簡単に生活保護も出るんだ」

「マジで?」


 こんな風に嘘か本当かよくわからない陰謀論で盛り上がり、溜飲を下げる。酒にも酔って気分がいい。


 休みの日はスマホゲーム三昧。課金もしているので、小遣いも減っていくが、悪いのは支配者だ。世の中だ。政治だ。そう自分に言い聞かせスマホゲームでストレス発散していた。


 そんあある日。キリギリス族が駅前でデモ活動していた。なんでも生活保護費を下げられ、不当だと訴えていた。


「なんだよ、こいつら。働かないくせに偉そうな」


 見ているだけで不快だった。イライラしながら仕事をしてしまう。そのおかげで怪我をし、しばらく通院生活になってしまった。


「なんだよ。どうして俺がこんな目に遭うんだ」


 医者のカブトムシ先生に泣き言も溢れるぐらい。好きでもない仕事をしているのに。遊んでいるキリギリスが得している。理不尽だ。この世の中の支配者も憎い。政治家も憎い。


「そういう君は、ちゃんと投票に行ってるかい? 子供に政治や金融の仕組みを説明することはできる?」


 カブトムシ先生は僕の味方はしなかった。


「今いる状況は、君の無関心さや現実逃避が引き起こしているんだよ。確かにキリギリス族は怠け者だ。でも、デモという行動はしているだろう?」


 頭にスマホゲームに熱中する自分。居酒屋で陰謀論に興じる自分が浮かんでは消える。確かにカブトムシ先生の言う通りだ。愚痴ばっかり。言い訳ばっかりで、自分から現状を変えるような行動は何もしていなかった。


「周りにいくらキリギリスがいても関係ないよ。君の人生には」


 そこまで言われてしまった僕は、上司に給料アップを訴えたり、仲間同士で団結し、待遇を少しでも上げるよう動いた。時にはデモ活動もするようになった。


「何あの働きアリ」

「底辺職しているのは自己責任じゃん」

「必死になっていて痛いね」


 カマキリ族に笑われたが、もう、人のことはどうでもいい。


 明日は仲間と共にストライキをする予定だ。もうスマホゲームはやめた。居酒屋にも行っていないが、少しだけ毎日が楽しい。

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