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ソルティメルヘン短編集〜めでたし、めでたし〜  作者: 地野千塩


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三年ニート寝太郎

 わたしはとある村の娘だ。毎日、畑を耕し、せっせと働いている。


「寝太郎くん、働いたら?」


 隣の家の寝太郎は全く働かない。穀潰しだ。三年以上寝てばかり。それ以外の時間はゲーム、音楽、漫画、小説、絵画鑑賞、それに推し活しかしていなかった。


「むにゃむにゃ。無能な俺が働かないのは、世のため、人のためなのさ」

「単なる穀潰しでしょうよ。わたしと一緒に畑を耕そう!」

「えーだるい」


 寝太郎を無理矢理連れ出し、一緒に仕事をしたが、この子、本当に無能だった。肥料の分量を間違える。野菜の芽を間違って摘んでしまう。水もろくに運べない。救いようがないほどだ。


 寝太郎の教育係とされてしまったわたしは、肩身が狭い。


 仕方ないので、村の職業紹介所へ寝太郎を無理矢理連れていくが、楽なバイトやパートは学生、主婦、老人が食い散らかし、寝太郎が受けられる求人がない。普通の人でも大変な介護、保育、警備、工場、飲食、宿泊のバイトは寝太郎には無理だ。もちろん農業も全く向いていない。


 そうは言っても、ニートの寝太郎は村にとっても恥だから、税金を投入し、無理矢理職業訓練をさせたが、全く効果がない。むしろどんどん寝太郎の状況が悪化していた。


「寝太郎は、村のみんなで支えた方がいいと思う」


 ある日、村の会議の時、わたしは提案した。


「寝太郎には毎月最低限度額だけ渡すの。いわゆるベーシックインカムよ。でも決して貯金はさせないように。そうした方が村の経済も回るんでは? 下手にバイトでもやって貯金された方がかえって良くない気がする。有能な人が働くべきよ。無能が働いたって現場は回らないから。みんな、反対するなら、寝太郎の教育係をやってね?」


 私の提案に、村のみんなは渋々同意し、晴れて寝太郎はニートになった。というか元に戻った。


 結果、とても良かった。


 労働現場に寝太郎のような無能がいないので、生産性がアップし、労働者の賃金も上がった。足手纏いがいなくなってスッキリ。


 無駄な就労支援施設も潰れたので、めぐりめぐって村人の負担も減った。寝太郎には最低限度額のお金を渡したが、それも全部市場に吐き出されるので、かえって村人には良かった。


 それに無能な寝太郎だったが、消費者としては一流だった。


 最近は村人への恩返しとし、村の芸術家や作家の評論文を書き、とても評判がいい。おかげで芸術家や作家がモチベーションアップし、数々の賞を受賞。結果、村の経済もとても潤った。生産者としては無能だった寝太郎だが、消費し、誰かを応援する才能だけはあったらしい。


「寝太郎、働かないでくれてありがとう!」


 今では、寝太郎にお礼を言うほどだった。めでたし、めでたし。

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