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ソルティメルヘン短編集〜めでたし、めでたし〜  作者: 地野千塩


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人魚と不老不死

 とある製薬会社の研究員・エリーは海辺に向かっていた。


 人魚の肉を探すためだ。薬品の開発に行き詰まったエリーは、ついに伝説を読み漁った。伝説によると、人魚の肉を食べると不老不死になれるらしい。藁も掴む思いだった。人魚の肉で新しく薬を作りたい。そんな思いでいっぱいだった。


「お願い、私に協力して!」


 少女の人魚を誘拐し、研究室に持ち帰った。意外と人魚は大人しく、言うことを聞いてくれた。


「なんだ、お姉さん。不老不死の薬なんかが欲しいの?」

「そうよ。それがあれば世界が救えるはずだら!」

「鼻息荒いから。だったら、この薬あげるって」

「えー?」

「不老不死の薬だよ。別に今はもう人魚は誰も飲まない」


 ここで人魚はニヤっと笑い、紫外線で傷んだ自身の髪をかきわけた。


「悪い人間に捕まった時は、護身用に使えって親に教育されてる。どう? この薬あげるから、取り引きしない? 早く解放してよ」


 取り引きを持ちかけられたことにエリーは引いたが、こんなチャンスは二度とないはず。人魚の手から不老不死の薬を奪った。同時に用済みになった人魚は解放し、薬の成分分析をすすめた。


「何これ、見たこともない成分だわ。でも、とにかく色々と試してみましょう」


 そして試行錯誤の結果、この薬の複製に成功し、治験に進み、新しく薬ができた。


 不老不死の薬は爆発的なヒットとなり、エリーも大金持ちになったが、例の人魚が研究室に訪ねてきた。


「な、何よ。私の薬だって主張しに来たの?」

「いいえ。まさか実用化して売るとは思わなかったわ」


 人魚はなぜか呆れていたが、飲むと泡になって消える薬も渡してきた。


「そんな薬、いらないでしょ?」

「いいえ。必要になる時がくるわ」


 人魚は強い口調で断言し、去っていくが、エリーには全くわからないことだった。


「何この薬。でも、ま、一応研究はするか?」


 そして五十年の時が流れた。人類の人口が増え、大問題になっていた。あの薬のせいだと、エリーを捕まえようとする動きもあるぐらいだ。


 それに人々は人生に退屈し始めていた。娯楽もつきた。美食も恋愛も旅行もやりつくした人類は、麻薬に溺れ、犯罪者も多いらしい。


 不老不死といっても、病気や怪我は消えない。特に精神病が蔓延し、病院は医療崩壊が始まっていた。


 エリーも人生に飽きていた。お金も時間も十分にあると、人間はこれだけ病むのか。今更ながら、人魚が不老不死の薬を飲まない理由を察した。


「人が泡になる薬の研究再開するか。しかし、人って愚かな存在ね」


 エリーは欠伸をしながら、その薬を開発すると、不老不死の薬以上によく売れた。今では人口もだいぶ減り、医療崩壊も少しずつ改善しているという。


「ま、退屈な人生だったわ」


 自分の役目を終えたことを悟り、エリーは泡になって消える薬を飲んだ。味は美味しくない。苦く、毒でも飲んでいるような味だったが、とても甘く感じてしまった。

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