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マッチ売りの弱者男性

「マッチはいりませんかー? お安いですよー」


 ある冬の日。とある弱者男性・Aはマッチを売っていた。


 汚いおじさんのAのマッチを買う客はいない。子供や女性、おばさんが何か売ると、すぐ「かわいそうに」と同情され、お金も得ていたが、Aに施しをする者はゼロ。


 こんなAは障害もあり、このマッチもB型作業所で作成したものだ。Fラン卒の福祉士達からドヤされながら作ったものだが、時給は百円だった。この美しい国・ジャッパンは福祉支援として毎日障害者に一万円支払われていたが、なぜか色々と中抜きされ、Aの手元に残るお金は時給百円だった。B型作業所も近隣の住民から建設が反対され、今や工業地帯の近くにあり、通うのにもバスで四十分かかった。


 それでも八十歳になる親は五十歳になるAを持て余し、こうして作業所で預かってくれる事を喜んではいた。とてもAが自立できないが、ジャッパン国の8050問題は深刻な課題だ。


 そんな中、飢えたAは売り物のマッチを灯す。


 なぜか幼少期、父親からの虐待シーンが浮かぶ。


 もう一回マッチを擦る。


 次は学生時代もいじめのシーン。


 もう一回マッチを擦ると、就活氷河期からのブラック企業での酷使、気が狂い精神障害が発病するまでの映像が浮かぶ。「鬱は風邪」という綺麗事に騙されて精神科に行ったら薬漬けになり、貧困ビジネス&ブラック福祉の泥沼から抜け出せなくなっている光景も見えた。


「なんだよ、このマッチは!」


 しかし道行く人は誰もAに関心を示さない。金儲け、投資、老後の心配、エンタメ、YouTube、今日の晩御飯の内容に頭がいっぱいだ。


「このマッチはなんだ?」


 最後にもう一回擦ると、老人になったAが福祉課へ行き、生活保護が断られるシーンが。


「自己責任!」

「怠け者!」

「働け!」


 罵詈雑言も受けていた。


「何だよ、このマッチ。俺の未来か?」


 絶望しかない。


「だったらもう、無敵の人になる方がいいね? どうせ誰も俺に関心がないでしょ?」


 Aはマッチを捨てると、代わりにナイフを購入し、駅前で振り回した。


 当然、逮捕されたが、牢屋の中は暖かく、なんとカツ丼も出た。


「カツ丼うっま! 牢屋の中の方がコスパがいいね!」

「何言ってるんだよ、被害者に謝れよ」


 看守は呆れていたが。


「うん。でも無敵の人に襲われるのも自己責任では? ずっと俺らの事は臭いものに蓋するか貧困ビジネスしてたでしょ? 国は自分の欲望やエゴに逆らえず、『鬱は風邪』とか言って綺麗事で誤魔化していたよね? 本音では自分の家の近くに福祉作業所ができたら嫌がるくせに」


 看守は何も言えない。


「俺はマッチ売ってるより、こっちの方が幸せ。本当にありがとう。勝ち組の皆様、防犯しっかり頑張ってね?」

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