マスク美人プリンセス
とあるプリンセス・ローズにはコンプレックスがあった。
「鏡よ、鏡さん。なぜ私の口元はこんなボコっとしているの?」
ローズの口元は美しくない。歯並びが悪く、ほうれい線も目立つ。鼻や目元が整っているので、余計に口元が目立ってしまう悩みがあった。
ローズも年頃で、お城で婚活パーティーもあったが、口元のコンプレックスが原因で、婚活市場に参戦することすらできなかった。
「あぁ。この口元嫌だなぁ。どうしよう……」
そんな中だった。国中で疫病が広がり、マスク着用が義務化された。
「いや、疫病は良くないけど、マスク着用は嬉しいよね!」
マスクをつけたローズは自信満々に振る舞い、お城での婚活パーティーでも無双状態だった。ローズの目元は美しく、そこだけで一目惚れする王子の行列ができるほどだった。
結局、ローズは国一番の王子の元へ嫁ぐことになった。ローズの家は貧乏貴族だったので、玉の輿婚だったが。
「あぁ。どうしよう。結婚したら、マスク外すべき?」
この幸運にも全く喜んでいなかった。最近は会うたびに王子様から素顔を見たいとせがまれ、頭を抱えていた。
疫病も終息しつつあり、マスクを外している人も増えてきた。王子様もとっくにマスクを外している。
「ねえ、鏡よ、鏡さん。もうしばらく疫病続いてくれない? 一生のお願い!」
ローズは鏡に向かって懇願するほどだったが、相変わらず口元はボコっとしていた。
「それは本末転倒では? マスク着用の目的、わかってる?」
一応、鏡からの返答もあったが、ローズは耳を塞ぎ、再びマスクを顔に貼り付けていた。
「もうマスクと共に棺桶に入りたいぐらい。一生、マスク着用でいいよ!」
その声は虚しく響き、相変わらず鏡の中にはマスク美人がいた。




