幸福な毒林檎
「鏡よ、鏡。世界で一番美しいのは誰?」
「白雪姫です。お妃さまは、世界ランキング千位ってレベルです」
「うっさいわ!」
白雪姫は実の娘じゃない。血は繋がっていないが、魔法の鏡は白雪姫が一番美しいという。この鏡のせいで、わたしは白雪姫への憎しみを募らせていた。
「あー、イライラする。あの鏡、バキバキに割って廃棄しようかな」
ぶつぶつ文句を言いながら、林檎に毒を仕込んでた。
白雪姫に食べさせる為だ。どうやら今は森の中で小人と慎ましくやっているらしいが、殺すには絶好のチャンスじゃないか。
「お妃さま。毒林檎をあげるのはおよしなさい」
「は? 鏡、何言ってるの?」
突然、鏡が話しかけてきた。どうせ説教でもされるのかと思ったが、もっと良い方法で白雪姫を破滅させられるという。
「どういう方法よ?」
それは気になった。
「当選した宝くじをあげるんだ。毒林檎の代わりにね」
「はあ? そんなの白雪姫が得するだけでしょ?」
「まあ、見てなよ」
鏡はあっという間に宝くじの当選券を作り、白雪姫の元に送ったという。
「意味わからないんですけど」
わたしは納得いかない。その後、鏡を通して白雪姫の現状を知ったが、毎日小人とどんちゃん騒ぎをし、夜にはホストに通い、大きな城も建て、とても幸福そうだった。
「やっぱり毒林檎で殺すべきだった」
そう鏡に文句ばっかり言っていたが、三か月後、白雪姫は怪しい投資話に騙されていた。金目当てにやってくる男にも病み、連日、酒浸り。小人からも騙され、無一文になった。
それどころか、さらに詐欺にあい、借金漬けになり、ついに風俗に売り飛ばされたと聞いた。
「こ、怖いわ……」
これは毒林檎なんかよりも怖い話だ。身の丈に合わない幸福は、一時的に良くても長期的には不幸になってしまうのか。あんなに嫌いだった白雪姫だったが、殺そうとしたことを後悔するほどだ。
「お妃さま、おいしい林檎あるけど、食べる?」
鏡が綺麗な林檎を差し出してきた。
「いえ、いいわ」
毒入りかもしれない。身の丈に合わない幸福という毒が入ってる可能性がある。すぐに辞退した。
その後、相変わらず美人ランキングで千位だったが、それでいい。うっかり一位になってしまったら、落ちた時が怖い。




