高望みかぐや姫
むかし、むかしあるところにかぐや姫という娘がいました。
出身は自称・月の都で、竹から生まれたという妙な噂もありました。美しく、殿方からの求婚も絶えなかったのですが……。
「年収一千万円とかあり得ない。せめて一億は欲しいから」
「身長も二メートルは欲しい」
「顔もアイドルレベルじゃないと許さない」
「もちろん次男がいい」
「実家も地主がいいわね」
殿方にそんな要求を繰り返すので、いつしか高望みもかぐや姫という二つ名もつくようになりました。おかげで求婚の話もすっかり途絶えました。
「本当、いい男がいないんだから」
そんなある日、かぐや姫、雷に打たれ、あっという間にお亡くなりになり、令和時代の日本人として転生してしまいました。
転生先は中小企業の年収五百万円の営業マンでした。名前は野島太郎といいます。
太郎は専業主婦の奥さん、長男、犬一匹を養い、月の小遣いも毎月千円ほどでした。給料は全額奥さんに渡しています。
「何、この男、あり得ない!」
そんな太郎にかぐや姫はツッコミを入れましたが、逆に専業主婦のパートナーを選び、子供とペットまで養えるかといえば、答えはノーでした。営業先でも頭を下げ、好きでもない仕事をしているのも、全部家族の為でした。
「そうか、男の人って逆に身分が低い人に優しかったんだね……。婚活で高望みをしているの、女の方が多い……」
かぐや姫はそのことに気づきました。上昇婚を目指し、高望みし、弱者や犬も見下していました。己の欲深さにもぞっとし、後悔もしました。本当に好きな人と結婚できればいいと思うようになりました。
気づくと、なぜか転生先から元のかぐや姫に戻っていました。
「ワォン!」
庭には野良犬が一匹います。汚い犬でしたが、拾って世話をする事にしました。
「太郎も犬を可愛がってたしな……」
これをきっかけに野良犬の保護活動を続け、婚活はお休み中です。それでも活動中のかぐや姫は幸せそうです。自然と求婚の話が舞い込むようになりました。
めでたし、めでたし。




