低望みかぐや姫
わたしたち老夫婦は、静かに暮らしていた。今日もじいさんと一緒にたけのこを取りに行く。
「ばあさん! この竹みて!」
「なんだ、じいさん!」
なぜか竹が光り、中には可愛い娘がいた。あまりにも可愛かった。連れて帰って面倒をみる事に。
わたしたちには子供がいない。それはそれは、この娘を可愛がった。かぐや姫と名付けた。
「じいさん、ばあさん。育ててくれてありがとう」
心が美しいかぐや姫。とても謙虚だったが、年頃になると、外見も美しい娘に成長した。
当然、噂を聞きつけた殿方から求婚の手紙が舞い込む。
しかしかぐや姫はどの縁談も断っていた。毎日、月を眺めて泣く日々。
「おばさん、わたしは世間の噂を知っています。高望みしている婚活女だと」
「まあ、誰がそんな事を言ったんかい?」
「SNSやYouTubeです」
「ネットのごく一部の意見じゃないか。結婚相手だ。一生のパートナーなんだから、理想を持っていいんだよ」
「それでも、世間の声が怖いわ」
かぐや姫は耳を塞ぎ、ウサギのようにガタガタと震えていた。
かぐや姫はその後、無職の男性がいい、チー牛がいい、DV男がいいと繰り返して発言していた。
これで婚活市場で謙虚な女として人気が出ると思ったけれど、逆だった。
「なんかあのかぐや姫、卑屈じゃない?」
「自分を大事にしていないね」
「男の趣味悪い」
「逆に嫌味っぽい」
そんな声まで聞こえるようになり、かぐや姫は月を見て泣いていた。
そんな月夜のある日。かぐや姫は故郷の月に帰るという。
「ちょ、かぐや姫! どういう事だい?」
「おばあさん、おじいさん。今までお世話になりました。私に地球の空気は合わない。生きづらかった。早く帰りたい。それが一番の願いです」
そう言い残し、月へ帰って行ってしまった。一瞬の出来事だった。
「じいさん、どうして?」
「ばあさん、泣くな。仕方がない。やっぱりあの子には地球の空気は合わなかったんだ」
その後、相変わらずかぐや姫の悪評が流れていた。悪評を流すものは、皆一様に不幸そうだった。他人の足を引っ張り、愚痴しか言っていない。結局、かぐや姫が高望みだろうが、低望みだろうが、事実は関係ない。悪口を言うのが生きがいになっていたのだろう。
「じいさん、かぐや姫は故郷で元気かね?」
「さあ……」
わたしもじいさんも、かぐや姫の幸せを祈る事しかできなかった。
息を吸った。この地球の空気。あんまり美味しいとは思えなかった。
月を見上げる。月だけは夢のように美しかった。




