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ソルティメルヘン短編集〜めでたし、めでたし〜  作者: 地野千塩


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ピノキオ・ジョブ・ホッパー

 転職回数、ついに二桁になってしまった。しかも前職は一週間で辞めたので、失業保険もない。


 私、思えば仕事運がない。新卒で入った会社は大企業だったが、上司のパワハラで鬱になって退職。その後もパワハラ、セクハラ、ブラック、メンタル疾患が洪水のように襲い、転職回数二桁に。


 まるでジョプホッパーだが、汚い履歴書をどうにか盛らないと。ゴミに香水を振りかけてもゴミだが、臭いぐらいは誤魔化しておきたい。


「はい。前職の退職理由は、新しく成長したいと思ったからです」


 面接でそんな事をいう。本当は適応障害になって辞めただけ。つまり嘘だ。


「ええ。御社の企業理念に惹かれて」


 これも嘘。企業理念なんてろくに調べていないし、面接官も知らなそう。


「そうです。お客様の役に立ちたいんです」


 嘘だ。とりあえずお金を稼げればなんでもいい。


「社長の著者を読ませていただき、大変感銘を受けまして」


 はい、嘘! 本当は求人票の給料に惹かれただけ。


「これまで培ったスキルが生きると思います」


 嘘!!!


 まあ、本音と建前を使い分けるスキルは、あらゆる面で生きるかも。


 そんな嘘で塗り固めていたのに、内定は一つも出ない。なぜか鼻が痛い。花粉症でもないのに、鼻筋がピリピリとしてきて、息が吸えない。


 鏡を見ると、ギョッとした。鼻が伸びてる。面接で嘘をつきまくったせいか、ピノキオみたくなっているじゃないか。


「どうしよう……」


 転職活動だけでもメンタルヘルスが悪化してしまった。しばらく休む事に。医者に相談したら、ストレスで幻覚を見たのだろうと言われた。


「日本社会は嫌ですね。本音と建前の嘘つきばっかりです。病むのは当然でしょう。という事で、診断書は発行するから、休んでください」


 休んだ後、鼻は元に戻っていた。もう嘘をつかなくても良いからだろう。


 ホッとした。安堵で涙が出てくる。本音と建前の板挟みになり、心が潰されていたらしい。


 本音では仕事もお客様もどうでも良くて、できるだけ楽してお金が手に入れば良いと思ってたと気づく。


「家が近いので応募しました。お金を稼ぐ為に仕方ないから働きたいです」


 とりあえずバイトの面接に行った。週二回の深夜のコンビニバイトだったが、正直に話したら、店長に同情され、内定が出てしまった。


「あれ? 私の転職活動ってなんだったんだろ?」


 鏡を見たら、鼻は全く異常なかった。呼吸も普通にできる。


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