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ソルティメルヘン短編集〜めでたし、めでたし〜  作者: 地野千塩


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子供部屋ピーターパン

 この子供部屋はネバーランドのようだ。


 部屋の本棚には漫画、アニメ、DVD、フィギア、アクリルスタンド。ペンライトやうちわも床に転がってる。


 我が国はずっと少子化。こういったサブカルチャーも本来、子供向けだったが、それだと市場が維持できない。俺のような氷河期子供部屋おじさんをターゲットにした結果、日本のサブカルチャーは成長し続けているのだろう。マーケティングとしては大正解だ。


「はぁ……」


 しかし、最近、この子供部屋にいても楽しくない。大人になりそこねた男だと実感してしまう。


 鏡を見るとそこにはピーターパンはいない。初老のおじさんの姿しかない。


 このネバーランドから、どうやったら出られるのかわからない。


 子供の頃はネバーランドに憧れていた。過酷な現実に向き合わず、ずっと子供のままでいられるなんて最高だと思っていたが、代償はあったらしい。


 そう考えた時、電話がかかってきた。友達の浦島太郎くんからだった。


「助けてくれよ、ピーターパン! ずっとアニメや漫画で遊んでいたら、いつのまにか爺さんになってた!」


 その後、同じく友達の眠り姫からも電話がかかってきた。


「どうしよう、ピーターパン! 引きこもって眠っていたら、いつのまにかおばさんになってた! 溺愛王子様も来ない!」


 二人とも口を揃えて言う。「ネバーランドに連れて行ってくれ」と。


 改めてこの子供部屋を見渡す。本棚にあるものが色褪せて見えてくるから困る。


 残念ながら、浦島太郎も眠り姫もネバーランドに連れていく事はできない。


 ゴミ袋に色褪せた思い出の数々を詰め込んでいく。もうネバーランドは消えたらしい。


 今更手遅れなのは理解しているが、もう一度ここから一歩出てみようか。今はそんな気持ちだ。


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