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ソルティメルヘン短編集〜めでたし、めでたし〜  作者: 地野千塩


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とりかへばやウサギと亀

 いよいよ今日、ウサギと亀のレースが始まります。スタートラインにウサギと亀が準備中です。両者とも真剣な眼差し。負けられない戦いです。


「よーい、どん!」


 スタートしましたが、当然、ウサギの方が早いです!


 ウサギは運動神経もいいですし、毎日ジムに通い、専用のトレーナーもついています。しかも親は元陸上選手です! 親ガチャ大成功!


 一方、亀は運動神経も悪いです。発達障害とうつ病もちです。親は虐待していました。現在、亀は生活保護を受給して、どうにか生活しています。親ガチャ大失敗です! 


「はは、あんな怠け者の亀には負けないさ。俺は毎日トレーニングを受けて努力しているんだから」


 そうウサギが笑った時でした。


 ドーン!


 何という事でしょう。雷が落ち、二人とも気を失っています。


「あれ?」


 目覚めたウサギはびっくりしました。身体は亀に生まれかわっていたからです。


「どういう事だ?」


 身体が重く、いくら努力しても前に進みません。むしろ努力すればするほど、悪化していました。


 一方、亀は目覚めた後、身体の軽さにびっくり。ウサギに生まれ変わっていたからです。


 どうやらウサギと亀は入れ替わってしまったようです。


「なんかよくわからないけれど、このチャンスは無駄にしたくない!」


 元亀はウサギとして走り続け、一位でゴールしました!


 みんなから歓声を受け、トロフィーももらいました。亀時代には決してない事です。


 その後、元亀は陸上の世界で大成功し、大金持ちになり、モテモテにもなりました。


「俺は努力したからね。みんなも努力すれば陸上で成功するよ。努力していない奴は甘え。怠け者だよ」


 そんな発言を繰り返すぐらいでした。


 一方、元ウサギは亀として生活保護と福祉作業所でギリギリの暮らしをしていました。福祉作業所は悪徳業者が運営している噂があり、貧困ビジネス化していました。


「俺の努力はなんだったんだろう?」


 手取り一万円の給料明細を見ながら、元ウサギは首を傾げます。作業所で努力はしていましたが、動けば動くほど周囲の足を引っ張っている状態でした。


「遺伝子と親ガチャって大事だね? スタートラインは一緒じゃなかったんだ……」


 大正解です。亀になってようやく悟れたみたいで良かったですね。

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