整形人魚姫
わたしは人魚姫。ずっと海の中で暮らしているが、昨日から嵐がきた。
人魚にとって嵐は日常茶飯事だったが、人間には一大事みたい。沖の方で人間が溺れているのを確認し、助けた。
息をしていない。躊躇したものの、口移しで息を吹き込んでやった。
側で見る人間。綺麗な顔している。おそらくオスだが、金色の髪は陽に透け、綺麗。紫外線で髪が傷んでいる人魚たちと大違い。
「ずるい」
口ではそう言いつつも、この人間が気になった。
数日間、この人間を観察したところ、隣国の王子様らしい。避暑で田舎に来て、嵐に巻き込まれた。なお、わたしの記憶は何も残っていないらしく、嵐が去った後は海辺で呑気に遊んでいた。
「おー! 楽しいな!」
海辺で遊んでいる王子様。笑っている。走っている。髪も綺麗。どれもわたしが持っていないもの。
「ずるい」
口ではそう言いつつ、王子様から目が離せない。好きになってしまった。
この胸のときめき、もう隠せない。限界だった。海の底まで泳ぎ、魔女に会いに行く。魔女は人魚から人間に生まれ変わる方法を知っているらしい。そんな噂があった。
「という事で魔女。私を人間に変えて。代償も払うわ。命をとってもいい」
覚悟を見せたが、魔女は意外にも優しかった。
「ぜんぶタダで魔法をかけてあげるよ」
「本当? 一体なぜ?」
「いいんだよ」
魔女は不気味に笑うが、良い話じゃないか。恋に溺れていたわたしは、その藁を掴んでみた。
魔法は一瞬だった。脚も生え、顔も綺麗になった。髪もそう。脂肪も抜いてもらい、声や背丈も綺麗に整形された。
最後に魔女に服やメイクもやってもらい、人間に生まれ変わった。
「やったわ!」
歩行訓練は大変だったが、それも次第に慣れ、海辺で遊んでいる王子様にアプローチも成功。話はトントン拍子に進み、プロポーズまで受けた。
幸せ。
そう幸せなはずだったのに、王子様の隣にいると、毎日違和感がある。
「君は本当に美しいね。髪も顔も、瞳も。脚も綺麗だ」
王子様に外見を褒められるたび、何か違う気がしてきた。
「ねえ、王子様。私がブスだったら、愛してくれた?」
「何、言ってるんだよ、君は美しいよ」
違和感しかない。王子様は本当のわたしを知らない。元人魚だと夢にも思ってないだろう。
「君は綺麗だよ」
そう言われる度に、心が苦しい。胸が張り裂けそう。
結局、わたしは王子様と結婚したが、思ったより幸せじゃなかった。
ちなみに王子様は遊び人で、どんな女性にも「綺麗だね」と言っているらしい。あろう事か海辺にいる人魚にも「髪が綺麗だね」とリップサービスをしている時もあった。
その上、生まれてきた子供は、ブスだった。王子様はわたしの托卵疑惑を持ち、夫婦仲は冷え切っていく。
一度でもいいから、ありのままで愛されたかった。
毎日、ブスの子供を見るたび、泣いてる。泡になって消えたいぐらいだ。あの時、ちゃんと失恋していれば、こんな事にはならなかった。魔女なんかに会いに行かなけば良かった。
どうやら魔法に頼った代償はあるらしい。




