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ソルティメルヘン短編集〜めでたし、めでたし〜  作者: 地野千塩


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モラハラ王子様

 むかし、むかしある所にシンデレラという娘がいました。外見だけでなく、心も美しい娘でした。


「シンデレラ! もっと仕事をしなさい!」


 そんなシンデレラを叱っている義姉。血の繋がりはありません。だから余計に義姉はシンデレラが生意気に見え、いじめていました。


 その上、義姉はとっくに婚期が過ぎ、焦っていました。なんとかしてお城のパーティーに出席するものの、結果は惨敗でした。


 焦った義姉は、魔法使いに会いに行きました。宇宙ヒーリングパワーや引き寄せの法則などを教えてもらい、ガラスの靴やドレスもゲット。魔法使いにエイジングケアも施され、お城のパーティーへ向かいました。


「いいか、お前さん。王子様の前でわざとガラスの靴を落とすのさ」

「魔法使い、なぜ?」

「いいから、言われた通りにやりな」


 疑問に思いつつも魔法使いの通りにしました。そして数日後、なぜかガラスの靴を持った王子様が現れ、求婚もされました。


 国中に義姉の評判が広がりました。嫁ぎ遅れた女性の成り上がりラブストーリーとして。なぜか義姉は実家でいじめられていたというデマも広がり、いつのまにか「シンデレラ」と呼ばれるようになったと言います。めでたし、めでたし。


 ◇◇◇


「おい、お前! なんでこんな無駄使いしているんだ! 不出来な嫁のくせに!」


 義姉は長時間、夫となった王子様に説教されていました。決して暴力はありません。言葉で精神的攻撃を繰り返す、モラハラです。


 実はこの王子様、母親の地位が低く、お城の中で権威もありませんでした。見た目だけは良いので、イベント等で人気でしたが、人望は全くなく、妻にしか偉そうにできません。


「おい! 聞いてるのかよ!」


 義姉はモラハラ夫の暴言に耐えかね、入退院を繰り返すようになりました。


「どうして? 私、結婚したのに、どうして不幸なの?」


 義姉の嘆きに、答える者はいませんでした。


 ◇◇◇


 一方、本物のシンデレラは庶民に嫁ぎ、子供も生まれ、平穏に暮らしていました。


「へえ、お姉さん、夫がモラハラだって噂があるんだ」


 王宮のゴシップ誌を読みながら、シンデレラはため息しかでません。義姉が結婚に焦り、目が曇っている様子は、一応心配していましたが、どうやら予想通りになったみたいです。


「結婚ってゴールじゃないんだねぇ。相手がモラハラ夫とかって……。悪い事はできないもんだね?」


 シンデレラはクスクスと笑い、さらにゴシップ誌を読み込んでいました。めでたし、めでたし。

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