【書籍化決定】魔女の予言【アニメ化決定】
わたしは令和を生きる魔女。ご先祖さまも魔女だったらしい。病気になる、地震がくるなどと予言し、村人を脅してお布施をガッポリと頂いていたという。
別に予言が外れてもいいのだ。「魔女様のパワーで、不幸を食い止めた。お布施ありがとう☆」と適当な事を言っておけばいい。我が家に伝わる詐欺ハウツー本にも書いてある。
という事で、わたしは鼻クソをほじくりながらも年収一億円だったりする。
最近では、ブスに「シンデレラ☆整形メゾット」とか、自己啓発好きな男に「赤ずきんちゃんの引き寄せマジック」なんて教材を一冊百万円で売ったりしていたが、今日はこんな顧客がやってきた。
アラサー女だったが、職業は売れない漫画。
「魔女様、どうやったらベストセラー漫画家になれる?」
「とりあえず作品見せて」
アラサー女の作品、一応電子書籍になっていたので見てみたが、昭和風の古臭い絵だった。ストーリーもカビ臭く、どんよりと暗い。案の定、自費出版だった。これはとてもプロレベルではないが、コンサル料ももらっていたし、このまま帰すのも気の毒。
「だったら、お客様。私が見た夢を予言漫画として発売したらいいんじゃない?」
「え、いいんですか?」
「ええ。令和7年の7 月5日に大地震がくるわ。そんな夢を見たの。実は311や熊本地震も夢で的中させてね……」
大嘘だったがアラサー女は信じて帰っていった。予言など全部適当だったのに。「片目の女性を表紙にするといいわ。イルミナティ秘伝の成功メゾットよ」という出まかせも信じているぐらい。
その後、彼女は本当に漫画にしWEBで連載中だという。タイトルは「わ・た・し・の・み・た・よ・ち・む」だったが、全部わたしの話を元にして描いたという。表紙も律儀に片目の女だった。
どうせこんな漫画、古臭く、誰も読まないだろうと思ったが、オカルト、都市伝説、陰謀論界隈の情弱にピンポイントでヒットしてしまったらしい。
【書籍化決定】「わ・た・し・の・み・た・よ・ち・む」。それをWEBで読んでみたが、確かに昭和風イラストが変な説得力を増し、本当に311や熊本地震前に制作された作品に見える。絵だけなら戦後すぐに描かれたようだ。
その上、一部インフルエンサーや芸能人もこの作品のファンだと公言した事で、「わ・た・し・の・み・た・よ・ち・む」は何十回も重版がかかり、書店で平積みされ、コンビニにまで置かれるようになった。本の帯には【アニメ決定】という文言も踊り、例のアラサー女はメディアからの注目を浴び、魔女のような活動をし始めた。いわばわたしの同業他社だ。このままではわたしの食い扶持が危うい。
「なんで? パクリじゃん? 私のネタを勝手に漫画にするなんて!」
当然、わたしはアラサー女を呼び出し、漫画の印税を半分以上よこせと要求。
「はあ? パクリじゃないし! 私が見た夢を漫画にしただけ!」
アラサー女は逆ギレ。揉み合いになり、わたしは押し倒されてしまった。
「は!? 何!? いたーい!!!」
うちどころが悪く死んでしまった。
予想外だった。まさかこんな事で死ぬとは。予想だにしていない。しかもなぜか正当防衛も適応され、アラサー女は無罪判決を受けた。
幽霊になってアラサー女を祟ろうと思ったぐらいだが、案の定、令和7年7月5日は何もなかった。例年のように暑いだけで、いたって平穏な日として終了。
おかげで例のアラサー女はネットで叩かれ、逮捕しろという話もでているらしい。
どうやら報いはあったわけだが、わたしは何も嬉しくない。もう死んでしまった。何もできない。息すらできない。
『なんで自分の命日を予言できなかったんだろうね!? それがわからないと全く意味なくないよね!?』
魔女の遠吠えがいつまでも響く。
ちなみに「わ・た・し・の・み・た・よ・ち・む」はブックオフで投げ売りされているという。令和7年の7月5日を過ぎると、市場価値は大幅に崩れた。
アラサー女には実力で漫画家になるよう、アドバイスすべきだったのかもしれない。特に絵柄があまりにも古臭いから、人気漫画を見て研究しろと言いたかった。




