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ソルティメルヘン短編集〜めでたし、めでたし〜  作者: 地野千塩


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清潔な王子様

 とある王子様は焦っていた。隣国の王子様がシンデレラという美女と結婚したらしく、大騒ぎ。


 一方、こちらの王子様は何回も縁談を繰り返していたが、全くお相手が決まらない。


「おかしいな。どうして姫が来ないんだ?」


 そんな時、王子様は女性雑誌を開いた。


「彼氏にしたい条件? 優しい人、清潔感がある人、思いやりがある人、か」


 それを見た王子様は男磨きを頑張った。フェミニズムを学び、女性へ優しく、清潔感のある王子様になるよう頑張った。


 特に清潔感にはこだわった。除菌スプレーをシュッシュとし、マスクをつけ、高級石鹸や香水の研究だってした。これでバイキンはいないはずだ。自分は清潔感があるはず。お嫁さん探しも成功するはず!


 しかし王子様の元に女性は来ない。むしろ遠ざかっている始末。


「王子様、失礼しますが、女性がいう清潔感や優しい、思いやりっていうのは単なるイケメンをマイルドに言い換えた言葉です」

「じいや、そうなのかい!?」

「バイキンだらけで不潔でもイケメンは大人気です。バイキンなんて目に見えませんしね。一方、大きな目や綺麗な鼻、スッとした顎などは目に見えます」

「そうなのか!」


 じいやは王子様に隣国の第三王子様の絵姿を見せたが、そこにはヒゲや髪がボサボサの男。しかし男の顔立ちは良く、ワイルドな魅力もあり、それだけで「清潔感」がありそう。


 一方王子様の顔はブサイクだった。体型もだらしない。


「王子様、女の言う言葉は信じてはいけません。イケメンが好きとかブサイクは金蔓にしたいなんて本音なんて言えるわけないでしょう。本音と建前を見極めよう」

「そんな……」


 女の本音に気づいた王子様は頭を抱えていた。


「まあ、我々も美味しそうに食べる女子とか、ぽっちゃり女子がいいと言いますが、デブは嫌いでしょう」

「じいや、それは確かにそうだ」

「男も女も嘘つきです。お互い様ですね」


 じいやは慰めの言葉をくれたが、ちっとも嬉しくはない。


 清潔になるための時間や金を考えたら完全に無駄にした。そのリソースで整形でもすればよかったが、もう後の祭り。


 その後、ダイエットに成功し、整形手術をした王子様は美女と婚約中だった。


「俺は太ってる女性も好きだよ」


 民衆の前で大嘘をつき、清潔感あふれる笑顔を振り撒いていた。


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