Fランヘンゼルとグレーテル
あるところにヘンゼルとグレーテルという兄弟がいました。
ヘンゼルもグレーテルも頭が悪く、結局Fラン大学にしか入れず、就活も行き詰まり、森の中を彷徨っていました。簡単にいえば食いっぱぐれていたのです。
「ヘンゼルにいちゃん! あそこに可愛い家があるよ!」
グレーテルは森の中でお菓子の家を見つけました。壁や屋根はクッキーやウエハース。マシュマロやチョコレートの飾りもつき、甘い香りもします。
「違うぞ、グレーテル。看板を見てみよろ。B型作業所って書いてある」
「ヘンゼルにいちゃん、それ何?」
「発達や精神障害者の福祉施設だろう。聞いた事がある。市街地にあると反対運動が起きるから森の中にあるんだろう」
「そうなの? でも何だか怖い。魔女がいそう」
グレーテルは今まで一度も障害者にあった事はありません。故に偏見もあり、彼らが作ったお菓子など食べたくないのが本音でした。
それでも二人ともお腹ペコペコ。お菓子の家に向かい、少し分けて貰うことにしました。
「おいしい!」
お菓子の家で作られたクッキーやチョコを食べたグレーテルは感動しました。
しかも障害者の利用者も大人しい人ばかりでした。確かに薬の副作用で太ったり、特性によりミスが多い障害者も多かったですが、長年差別やいじめに苦しんでいたのでしょう。大人しい人ばかりでした。世間の評判は無知からくるイメージだったみたいです。本当に手がつけられない患者は病院にいるはずですしね。
グレーテルは拍子抜けしてしまいましたが、ヘンゼルは良いことを思いつきました。
「だったらウチらがここで楽するのって良くないか?」
「え、お兄ちゃん。どういう事?」
「作業所を運営するんだよ」
「うまく行くの?」
「国からの補助金が出るらしい」
ヘンゼルはこういった作業所を上手く運営するビジネスノウハウがある事も調べました。
動画、アニメ、WEB小説等も学べ「特性を活かして才能を伸ばそう!」というキャッチコピーもつけて作業所を運営すると、さらに利用者がやってきました。
現場は非正規の福祉士で回しておけばいい。福祉士たちもFラン出身しかいませんでしが、ヘンゼルとグレーテルの方がほんの少し知恵が回るようでした。利用者は世間のイメージと違って大人しい人が多いので、作業所運営自体はとても楽でした。
ここの利用者が得られるお金は雀の涙でしたが、これも合法ですね。ここを利用して自立に成功したり、継続的に就労できた人はなく、数字上は何の成果も上げていませんが、それでいいんです。
好きな事をして楽しんでいる利用者も多いですし、ヘンゼルとグレーテルの懐も潤いウィンウィン。
正直、こんな所は潰して利用者に直接月二十万程度支給した方が圧倒的に節税になりますが、こういった施設は、利用者の親や家族が望んでいるケースも多いですから。
こうしてFラン卒のヘンゼルとグレーテルも食い扶持が確保できました。弱い者がさらに弱い者を食い物にするのは世の常かもしれません。
本当は利用者ではなく、食いっぱぐれたFランヘンゼルとグレーテルの為にある作業所です。
めでたし、めでたし。




