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ソルティメルヘン短編集〜めでたし、めでたし〜  作者: 地野千塩


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令和のプリンセス

 木村ミユキはシンデレラや白雪姫を呼んでも全く感動しないどことか「王子様が本当はクズだったらどうするんだろう?」と考えるタイプだった。


 何をするのにも現実的でリスクを考えていた。周りは遊んでいたけれど、勉強も頑張り、高学歴もゲット。製薬会社の研究員になり、年収も一般的な女性よりもかなり高かった。


 同じように稼いでいる男と三年付き合い、結婚した。もちろん仕事は続けた。いわゆる二馬力のパワーカップル。


 周囲からは祝福の嵐だ。


「リスク管理がすごい」

「稼いでいる奥さんって素敵だな」

「ミユキみたいのが令和のプリンセスかもね」


 そんな事ばかり言われていたので鼻が高い。


 夫とともにペアローンを組み、タワマンに住んだ。


 最上階のタワマンの眺めはサイコーだ。


 世の中にはリスク管理もできず、シンママになったり、転職を繰り返す女も多いらしい。


 実に愚かだ。面白いぐらい愚か。はっきり言って見下していたが、自己責任だと思っていた。きっと幼い頃、シンデレラや白雪姫を鵜呑みにし、王子様に頼る事しか考えてこなかったのだろう。


 そんなある日の事だった。


 夫の脱いだ下着や服を洗濯しようとした時、何か違和感を持った。特に下着が何か臭う。化粧品のような香水のような?


「まさか浮気……!?」


 その予感は当たり、探偵会社に依頼すると、数々の証拠が発覚した。


 しかも夫の不倫は会社にもバレた。夫は田舎へ飛ばされ、離婚まで申し込んできた。


「ちょ、ペアローンはどうするの!?」


 なぜかミユキはそのリスクを全く考えていなかった。実際、年収もあったから、どうにかなるだろいと甘く見ていた。高ぶりや慢心もあったのだろう。


「そんな……」


 周りに褒められていたのも、嫌味だったのかもしれない。パワーカップルの大きな落とし穴。令和のプリンセスも一筋縄では行かなかったらしい。


 結局、残ったのは多額のローン。


 タワマンからもお引越し。こうして外から改めて見ると、タワマンもどこが良かったのかよく分からないものだ。今では崩れかけのバベルの塔に見えてきた。


 虚しい。人生は一寸先は闇だったらしい。二馬力パワーカップルでも必ずしも幸せになれないらしい。


「俺、自立して稼いでいる女がいいんだよね。二馬力のパワーカップルに憧れるから」


 昔、結婚する前、元夫は真理のように語っていたが「都合の良い女」を探していたのかもしれない。


 実際、今も看護師のヒモになっていると聞いた。マッチングアプリでは高収入の女を漁っているというが、こういった話は特に珍しくない。


「あれ? もしかしてシンデレラや白雪姫みたいになるのが良かったか?」


 その事にも気づいたミユキは、全く笑えない。


 今は先進国や男女平等をうたっている国でも専業主婦志望の女が急増中だという。ミユキはそうなる理由がよくわかり、深く頷いていた。

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