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ソルティメルヘン短編集〜めでたし、めでたし〜  作者: 地野千塩


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義姉の婚活

 シンデレラの義姉、シャーロットは歯軋りしていた。


 たった今、バカにしていた妹が王子様に見初められ、婚約までしてしまったから。


「なんであんたは婚活ぐらい成功できないのよ! よりによってシンデレラが王子様と結婚ってどういう事!?」


 これにはシャーロットの母も怒り狂った。その矛先はシャーロットへ向けられる事になり、連日婚活三昧になったが、なんの成果もない。


 婚活パーティー会場ではシンデレラへのいじめも公となっており、シャーロットは壁の花と化す。


 確かにシンデレラをいじめていたのは事実だが、それは母に命令されてやった事。噂は尾鰭がつき、まるでシャーロットは悪女のように言われていた。


「自業自得とはいえね……」


 シンデレラの小さな足にピッタリのガラスの靴を思い出す。


 一方自分はいじめっ子の醜い姉。その欠けた穴を埋めるのには、王子様をつかまえて婚約するしかない。


 シャーロットは自分の大きな足を見つめながら、さらに泣きたくなってきたが、壁の花は相変わらず、最近ではすっかり腫れ物化。婚活パーティーに行くたびに辛い。


「靴屋さん。私にもガラスの靴を作ってくださらない?」


 思い詰めたシャーロットは街も靴職人の元へ向かった。自分もガラスの靴を履いて王子様の前でわざと落とせば、結婚できるんじゃないかと考えたから。


「嫌だね」


 しかし靴職人の青年は首を縦に振らない。職人らしく、ちょっと頑固そう。意思の強い表情を見せてこうも言う。


「ガラスの靴が欲しければ他所へ行きな」

「お金ならいくらでも払います」

「お金じゃないし。っていうか、お前、シンデレラになりたいだけだろ。他人になって幸せになるような怠惰な女に俺の靴は売らない」

「え、他人になるって?」

「そうだろう? 自分の足を無視して、小さなガラスの靴なんて履いて楽しいか? 他人を演じて幸せか?」


 シャーロットは答えられない。全くの図星だったから。シンデレラみたいになれば幸せになれると思ってた。自分の幸せも無視し、心の欠けを他人になる事で埋めようとしていたんだ。


 こんな心で婚活も上手くいくわけがない。こんなスッカラカンな女に誰が求婚しようか。


「悪い、言い過ぎた」

「いえ。だったら、私の足にピッタリな靴を作ってくださらない?」

「だったらいいぜ」


 靴職人に足のサイズを細かく測ってもらい、数ヶ月かけ、オーダーメイドの一品を作ってもらった。


 出来上がった靴は、ガラスのそれとは正反対のタイプだ。黒皮のブーツで、編み込みがあり、ヒールもあった。強そうな靴。華奢な所は一つもない。どこまでも歩いていけそうな。でも、フリルたっぷりの豪華なドレスとも意外と相性がよく、シャーロットの足にもすっと馴染んだ。


「素敵、この靴。もう私、誰か他人にならなくていいのね?」

「ああ。本当の自分に戻れば必ず運命の相手に出会えるよ」

「ありがとう。大切にさせて頂くわ」


 その後、シンデレラへ謝罪の手紙も書いた。この靴をはくと、謝罪しなければならない気持ちになったから。


 それにこの靴で婚活パーティーへ行くと、不思議と力が抜け、男性とも普通に話せた。もう結婚への強い執着もなく、心の欠けを埋める相手を探さなくてもいいと信じられたからか。


「この靴、本当に素敵ね。またあの職人さんにお礼を伝えたいわ」


 そんな気持ちにもなり、用もないのに、靴屋へ出向く事も増え、いつの間にかあの職人の男と婚約も決まってしまった。


 母はシャーロットが庶民の男、しかも貧しい靴職人に嫁いだ事にご立腹だったが、無視。


 もう自分にはピッタリの靴がある。ガラスの靴がなくても幸せだって気づいたから。


「あなた、この素敵な靴をどうもありがとう」

「いや、いいんだよ。そんなに喜んでくれるとは知らなかった」


 相手は王子様ではなかったけれど、シャーロットは末永く幸せに暮らした。


 めでたし、めでたし。

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