陰謀論者のオオカミ少年
この村は長閑で平和。村娘の私も平和に暮らしていたが、一つ問題があった。
それは羊飼いのオオカミ少年。オオカミ少年というのはあだ名で、いつも「オオカミが来るぞ!」と人を脅して怖がらせていたから。
実際、平和なこの村にオオカミが来る事はなく、彼の評判は地に落ちていたが。
「ワクチンの中身は電磁波操作するチップが埋め込まれており、死ぬぞ」
「うま味調味料を食べるなよ、死ぬぞ!」
「あの雲はケムトレイルだ」
「トランプサイコー!」
「今年夏に地震がくる!」
何とオオカミ少年は陰謀論者になってしまい、デマを村中に広げていた。
特に酷いのが地震や災害の予言。
「おい! 明日地震が来るぞ! 逃げて!」
私はうっかり信じたけれど、結局、地震なんて来なかった。それどころか地震や災害の予言で漫画を描いたり、占いをやったり、やりたい放題。
こうしてオオカミ少年の評判はさらに地に落ちたある日。
「みんな! 高台に逃げろ! 津波が来るぞ! 大きな地震が来るから!」
そう吠えていた。どうせまた嘘だろう。いつものようにスルーしていたら、大きな地鳴りと揺れがはじまった。
どうやらオオカミ少年の言う事は本当だったらしいが、彼の普段の言動のせいで、逃げ遅れてしまった村人が多数。私の友人も大怪我をしたり、行方不明になった者も多い。
案の定、避難所ではオオカミ少年が責められていたが、一部風向きが変わってきた。
「もしや、オオカミ少年の言っていた事は嘘でもないのか……?」
金物屋のおじさんは、反オオカミ少年の筆頭だったが、急に胸を押さえて苦しみ始めた。
「え!?」
私は大慌てで救急車を呼ぶが、なぜか隊員の人が「ワクチン接種しましたか!?」と金物屋のおじさんに聞いていた。
「え!? どういう事!?」
「だから言っただろう。目覚めている人は目覚めているのだよ」
オオカミ少年は冷たく笑っていた。
「デマに騙されるのも自己責任ではないかね。ちゃんと調べろよ。安易に他人を信用するな。要は情報を選別する目を持てって事だよ。果たして俺はそんなに極悪人ですか?」
悔しいがオオカミ少年の言う事は否定できない。
「そうね。デマを信じたとしても人のせいにするのは辞めるわ。子供じゃあるまいしね」
私はそう言うしかなかった。
ちなみに金物屋のおじさんは入院後、寝たきりになってしまったが、アレとの因果関係は不明だという。