公正世界仮説とジャックと豆の木
ここはとある田舎村。私は養鶏場で働く村娘。毎日カツカツ。税金が高い割に物価も上昇し、働いても働いても金が出て行った。
村ではジャックという金持ちがいた。金の卵を産む鶏を所有し、うちの養鶏場の社長。おじさんだが、子供の頃に巨人から盗んだもので金持ちになったらしい。この養鶏場の金の卵を産む鶏もそう。
当時、被害者である巨人の方が叩かれていたらしい。自己責任だとか、防犯をしっかりしなかったからだと。逆にジャックはさして責められず、今のような地位を築いたらしい。
「理不尽ですよ、社長。社長のような泥棒が金持ちで、被害者の巨人が叩かれるって」
ある日、養鶏場の休憩室で休んでいたら、ジャックと二人きりになり、ついつい文句を言ってしまう。
「ははは。人間は『世の中は公平であって欲しい』という仮説で生きているからね。事件があったら、被害者の方が責められるのさ。そんな仮説を保つ為に」
「それにしたって」
ジャックは私に文句を言われてもケラケラ笑っていた。
「本当はこの世の中って理不尽で恐ろしい世界だ。誰も大人はこんな現実を教えないが」
「ですよね」
目に前には「理不尽」を具現化したようなジャック。もう私は何も言い返せない。
「だがら、そういう世の中だと理解した上で生存戦略を立てるのが賢い生き方だ。何かの事件の被害者を責めても、世の中は公正にならない」
「社長みたいに泥棒してもいいんですか?」
「まあ、俺も若かった。もう泥棒はしないよ」
とはいえ、ジャックは商才があり、青田買いも得意で投資でも成功していた。結局は、持って生まれた才能とか運が重要か。そう思えば少しはこの理不尽な世界も受け入れらてそう?
「現実は童話のように勧善懲悪とはいかないからね。理不尽な世の中と折り合いをつける事も、大人になる為には大事だと思うね」
ジャックがそう言うと、鶏小屋から鳴き声が響く。また今日も鶏が金の卵を産んだみたいだ。




