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ソルティメルヘン短編集〜めでたし、めでたし〜  作者: 地野千塩


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ウサギとカメの生存戦略

「ああ、辛い。なんで長距離走ばっかり僕は出ているんだ?」


 みなさん、こんにちは。


 僕はカメです。ノロマな僕だけど、一回長距離走のレースに出たら、うっかり勝ってしまい、連日レースに出場していた。


 勝った時はライバルのウサギ君が油断してくれたおかげで勝てたんだ。今は本気のウサギ族ばかりで、歯が立たない。持って生まれた才能の差を感じるなぁ。


 でも逃げちゃダメだ。カメ族は一度決めた事は最後までやり通すのがカッコいいとされていた。三日坊主なんてとんでもない。最低でも三年は続けろという。だから長距離走も逃げずに三年はチャレンジしたい。


「あれ? ウサギ君?」


 そう思い、歯を食いしばりながら走っていた時、木陰でウサギ君が休んでいるのが見えた。あのレースでもウサギ君はこうして油断していた。


「長距離レース中だよ。休んでいて大丈夫?」

「やあ、カメ君。大丈夫さ」


 ウサギ君は余裕だった。口笛まで吹いている。


「長距離走ばかりが戦いじゃないからね。カメ君ももう少し視野を広くしたほうがいい」

「えー?」

「それにウサギ族が本気出したら、カメ族は絶対に勝てない。努力すればするほど差がつく。持って生まれた才能ってもんがあるんだ」


 ウサギ君の言うことは耳が痛い。


「君も本当に自分に合うレースを見つけたらいい。持って生まれた才能で勝てるものを」

「ウサギ君は? どうするの?」

「僕も長距離走が向いてないからね」

「ふーん」

「戦う場所を変える事は逃げではないよ。単なる生存戦略だ」


 後日、ウサギ君はドッジボール大会では大活躍していた。元々逃げ脚が速い。ドッチボールは最後まで逃げ切れば勝ちという競技だ。案外、筋肉量や体格は関係ない。ドッチボールではウサギ君の独壇場だった。


「ウサギ君、がんばれ!」


 そんなウサギ君を応援しているのも楽しかった。


「逃げるだけでもドッチボールでは活躍出来るのか。そうか、長距離走は僕にも合ってなかったかもなぁ」


 ドッチボール輝いているウサギ君を応援していたら、気が変わってきた。


 そもそも僕は人を蹴落としてまで勝つ事にも興味がない。あのレースで勝てたのも完全に運が良かったから。


「そうか。僕は運がいいのか」

「そうだよ、カメ君は運がいいのが長所だよ。君が応援席にいるだけで頑張れた」


 ウサギ君にもそう言われた。


「だったらもうレースに出るのは辞めて、応援する側に行ってもいいと思う?」

「いいと思う!」


 結局、ウサギ君に太鼓判を押され、僕は長距離走のレースを出るのを諦めた。


 同じカメ族からはバカにされたが、今後は推し活がもっと人気が出そうだ。様々な応援グッズを販売し、応援ソングも作って売ったら、評判がいい。僕には作曲の才能があったらしく、動画サイトでバズるようにもなった。


「なあ、僕の言った通りだろ? 自分に合った才能を活かす生存戦略は悪くない」


 ウサギ君はそう言って笑い、今日もドッチボールで大活躍。


「頑張れ! ウサギ君!」


 僕も応援席で精一杯、大声を出した。


 こんな風に勝ち負けに拘らず、各々の才能を尊重できたら、世界はもっと良くなる気がした。

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