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ソルティメルヘン短編集〜めでたし、めでたし〜  作者: 地野千塩


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コスパが良いくるみ割り人形

 男なんてコスパが悪い。浮気するし、裏切るし、察しが悪いし、アドバイスがウザい。


 アラフォー女の内山京香は、そう考えながら生活していた。職業も人気イラストレーターだし、経済的自立もしてる。副業も含めると年収はそこらの男よりも高い。余計に男はコスパが悪いと思う。


 そんなある日、家の物置にくるみ割り人形が放置されているのに気づいた。全くイケメンじゃない。ギョロ目で髭もモジャモジャ。友人の海外旅行のお土産でもらったものだが、ずっと放置していた為、埃もかぶっていた。


「でも、『くるみ割り人形』のようにいい夢が見られるかもしれないな。ふふ、この子で妄想してみようかな」


 という事で京香はくるみ割り人形を自分の彼氏と見たて、想像、いや妄想して楽しむ事にした。


 どうせ家は自分しかいない。コスパの悪い男よりも楽しそう。


 このくるみ割り人形は本当はイケメン王子様。呪われて不細工な人形になったけれど、京香の愛の力で目覚め、人形の国で幸せに暮らした。


 そんな妄想を毎日くる返した。コスパがいい。生身の男の煩わしい事が一切なく、妄想の中だけは自由だった。


「本当、コスパがいいね」


 しかし楽しかったのは最初の一ヶ月だけだった。くるみ割り人形はコスパがいいが、京香の妄想通りにイケメン王子様にもならないし。喧嘩もないが、キスもハグもない。自分の頭の中で作り上げた世界と現実の乖離がキツい。このままずっと妄想で遊んでいたら、元の世界に帰れるか怖くもなってきた。


「あれ? やっぱりコスパ良くもなかった?」


 気づくと今年も独りのクリスマス。相変わらず一ミリも動かないくるみ割り人形を見ながら、虚しさだけが心に残る。


「捨てるか、これ」


 ゴミ箱にくるみ割り人形を放り込んだが、不思議と後悔はない。


 昨今は日本の婚姻数の低下が問題になっているそうだ。主に経済格差が原因とされているが、違うかもしれない。


「コスパの良さを求め、自分しか愛さなかった事が結婚できない原因か?」


 そう呟くが、当然のように返事はなかった。


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