昨今の北風と太陽
北風と太陽は常に勝負をしていた。一人の人間をターゲットにし、北風と太陽どちらがその人の言う事を聞くか。
「やあ、北風風くん。今日こそ負けない!」
「僕だって負けないぞ! びゅー!」
北風くんは冷たい風を起こした。
「お、今日のターゲットはあの人にしようよ。陰謀論者になった主婦のA子さん。陰謀論にハマったせいで家族と不仲だってさ。よし、北風くん、A子さんが陰謀論をやめるかどうか、勝負しないかい?」
「おお、いいね! さっそく行ってくるわ!」
こうして北風くんはA子さんの周りに冷たい風を起こした。
「何この風! 異様に冷たい!」
A子さんはガタガタ震えた。
「さてはディープステートが気候変動させているのね! あの空にある雲はケムトレイル。人口地震が起きるかも!」
「何言ってるんだよ、A子さん! そんな下らない陰謀論にハマるな。全部デマだよ!」
北風くんはさらにA子さんに冷たい風を送ります。
「は!? 北風が喋った! さてはこれもディープステートの仕業ね。目覚めている私に悪人達が攻撃しているんだわ!」
「は? バカじゃねー? そんなデマ言ってないで家事ちゃんとやってパートもいけよ。だから家族と不仲になってるんだ。自業自得!」
「なんですって ! この北風! これはやはりディープステートの陰謀。寝覚めている私たちが正しかった! ワクチン打たないで本当に良かったわ!」
こんな調子で北風くんとA子さんの会話は何の進展もなく、結局、A子さんは「陰謀論者のウチらは目覚めていてサイコー!」と逆に信念を強めて帰っていった。つまり、北風くんの作戦は失敗。
「じゃあ、次は僕だね。行ってくるよ、北風くん」
「気をつけろよ。あのA子って女、本当に頭がおかしい。社会不適合すぎる!」
「まあまあ、大丈夫さ」
こうして太陽くんはA子さんに話しかけた。
「A子さん、こんにちわ」
「は!? 太陽が話しかけてきた! これもディープステートの仕業?」
「はは、A子さんは陰謀論にハマってるんだね。いいね!」
「は?」
陰謀論者として「いいね!」と言われる事は滅多にないA子は口をポカンと開けた。それに太陽くんのぎひだまりが暖かい。
「ねえ、僕は陰謀論が全て間違いとは言わない。中には本当の情報も混ざっているのだろう」
「そうよ! 人工地震だって政府が認めているんだからね!」
「そうなんだー。僕にも陰謀の内容を聞かせてくれない?」
A子は嬉々として陰謀論を語る。中にはデマとしか見えない情報もあったが、太陽くんはニコニコと聞いていた。
「あれ? そう肯定的に取られると、拍子抜けするというか、毒気が消えるんですけど?」
A子は太陽くんの態度にだんだん困惑してきた。
「あれ? 私、悪の組織と戦う少数派、選ばれた目覚めている陰謀論者でもなかった?」
「そうかもしれないね。実はコッソリ陰謀論好きな人とか多いかも」
「そっか……。私、ちょっと人と違う自分に酔ってたとうか」
「A子さんは人と違う陰謀論者じゃなく、心が優しい素晴らしい女性だよ!」
「太陽くん!」
結果、A子さんは太陽くんのポカポカ陽だまり攻撃にも勝てず、陰謀論者を辞めた。今度は心優しい女性としてしっかり家庭を守り、地域社会のボランティアをして過ごすという。
「やった、僕の勝ち!」
「くそ、また太陽くんに負けた!」
「人は誰かにポジティブかつ肯定的に期待されると頑張れるからね。北風くんも素晴らし戦いだったと思う。次の勝負も行こう!」
「くそ、本当に太陽くんは口が上手いね!」
こうしてまた北風くんと太陽くんの戦いは続いていった。




