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ソルティメルヘン短編集〜めでたし、めでたし〜  作者: 地野千塩


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引き寄せ眠り姫

 私は王女らしい。


 らしいというのは、父にも母にも会った事がないから。私は生まれてすぐに魔法使いに呪いをかけられたそうで、塔の最上階に幽閉されていた。


 一体どんな呪いかは不明だったが、塔の周辺はイバラが茂り、世話役の侍女以外は滅多に人が来ない場所だった。


 人は私の事を眠り姫と呼びそう。実際、塔の中では眠っている事が多いからさろう。


 夢もよく見た。


 塔に王子様が助けに来てくれて、幸せになる夢。侍女によると、好きな事、楽しい事、ワクワクする事に意識を集中し、波動というものを高めていたら、夢が実現するという。この法則は「引き寄せの法則」という。侍女は魔法使いの血筋なので、色々とスピリチュアルにも詳しいようだ。


「逆に悪い事に意識を向けてはいけません。それが現実になるから、常にポジティブで波動を高めましょう」

「ええ。王子様が迎えに来てくれる夢だけに意識を集中するわ」


 しかし待てど暮らせど王子様は迎えに来ない。私の評判も落ちていき、「世間知らず」「依存症」「重い女」「お花畑」などと言われるようになった。眠り姫という名前も蔑称のような響き……。


 気づくと私は塔に幽閉されたまま、四十三歳になっていた。鏡を見ると、皺だらけの醜い女がいたが、ネガティヴな事に意識を集中してはいけない。


「私は美人。私はリッチ。私は全てを引き寄せ幸福です」


 侍女に教えられたアファメーションを唱え、現実逃避している時だった。


 突然大きな地震が起き、塔が崩れてしまった。


「きゃあああ!」


 地震が来るなんて意識もイメージングもアファメーションもしていなかったのに何故!?


 とにかく必死に逃げた。イバラの中もくぐり、どうにか生き延び、今は修道院で保護されて暮らしていた。


 思えば、呪いは自分で自分にかけていたのかもそれない。ネガティブな事を拒否し、現実逃避し、自分のエゴを太らせているだけだった。こんな女に王子様が迎えに来る事はないのだろう。


 今は目が覚めた。


 私の脚はイバラの棘でついた傷跡があるけれど、あの時はただ生きる為に必死だった。今は生きているだけで幸せかもしれない。もう引き寄せの法則などは要らないと気づく。


 その後、私は修道院でシスターとして地に足をつけて生きた。この国は貧困や病人も多い。そんな人の為にシスターとして仕事をしたいと思う。ちゃんと目を覚まし、この国の現実からも逃げない事に決めた。


 もう甘い夢は見られないけれど、目が覚めた今が一番幸せ。お父様やお母様も行方不明になっていた私を探しにきたが、女王の立場も捨てた。


「おはよう。はあ、よく寝たわ。さあ、今日も一日頑張りまりしょう」


 毎日の目覚めも悪くない。


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