偶像崇拝傘地蔵
とある農家の村人・優太郎は、こんな物語を聞いた。
老人がお地蔵さんを綺麗にし、雪を降る日は傘を被せてあげたそうだ。すると、老人は突然お金持ちになり、大変幸せになったという。「傘地蔵」という物語で、子供達にも人気があるとか。
村の作物が育たず、貧困状態の雄太郎は、この話に食いついた。
「傘地蔵」の作者に会いに行った。金持ちの大きな家で、作者も立派な衣を着た老人だった。
「あの話は実話なんです」
「本当ですか?」
「ああ、わしは売れない傘作りの老人だったが、お地蔵さんを綺麗にしたり、お供えものをしたり、雪の日には傘を被せてあげたら、お金持ちになったのじゃ」
「うわぁ。夢があるな」
「詳しい話は『傘地蔵メゾット』として情報教材やセミナーを開いているので、是非参加してもらいたい」
「はい!」
情報教材やセミナーは高額だったが、これで豊かになれるのなら、安いものだ。全財産をつぎこみ、一生懸命、お地蔵さんを拝み、綺麗にし、お供えものもした。雪の降る日は傘も被せてあげたが、相変わらず優太郎は貧乏だった。
「あんなにお金をかけているのになぜ? なぜですか、お地蔵様! なぜ私はまだ貧乏なんですか!?」
しかしお地蔵様はいくら拝んでも返事がない。石だ。見かけは慈悲深い表情をしているが、単なる石である事に気づいてしまった。
「ああ、そうか……。お地蔵様は神仏なんかじゃない。単なる石だ。偶像だったんだ」
それに気づいた優太郎はコツコツと畑仕事を頑張った。確かに不作だったが、全国的にそうなり、おかげで野菜の価格も上がり、農家の立場も高くなっている事にも気づいた。不作も全てが悪いわけではないらしい。
そうこうしている内にお地蔵のことなどすっかり忘れた。村のみんなも忘れてしまったので、今では本当に単なる石っぽい。
ちなみに「傘地蔵」の作者は、あちこちで恨みを買っていたらしく、盗賊に刺されて殺されたという。
それでも「傘地蔵」は夢のある話で子供達には人気だったが、優太郎は自分の息子には、この話は一切聞かせなかった。偶像崇拝をし、一発逆転を狙うようなろくでもない大人にはなって欲しくない。
「偶像は拝まない方がいいよ。石ころなんかには何の力もないからね」
息子とお地蔵様の前を通りかかった時、そんな話をしていた。




