表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ソルティメルヘン短編集〜めでたし、めでたし〜  作者: 地野千塩


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/87

偶像崇拝傘地蔵

 とある農家の村人・優太郎は、こんな物語を聞いた。


 老人がお地蔵さんを綺麗にし、雪を降る日は傘を被せてあげたそうだ。すると、老人は突然お金持ちになり、大変幸せになったという。「傘地蔵」という物語で、子供達にも人気があるとか。


 村の作物が育たず、貧困状態の雄太郎は、この話に食いついた。


「傘地蔵」の作者に会いに行った。金持ちの大きな家で、作者も立派な衣を着た老人だった。


「あの話は実話なんです」

「本当ですか?」

「ああ、わしは売れない傘作りの老人だったが、お地蔵さんを綺麗にしたり、お供えものをしたり、雪の日には傘を被せてあげたら、お金持ちになったのじゃ」

「うわぁ。夢があるな」

「詳しい話は『傘地蔵メゾット』として情報教材やセミナーを開いているので、是非参加してもらいたい」

「はい!」


 情報教材やセミナーは高額だったが、これで豊かになれるのなら、安いものだ。全財産をつぎこみ、一生懸命、お地蔵さんを拝み、綺麗にし、お供えものもした。雪の降る日は傘も被せてあげたが、相変わらず優太郎は貧乏だった。


「あんなにお金をかけているのになぜ? なぜですか、お地蔵様! なぜ私はまだ貧乏なんですか!?」


 しかしお地蔵様はいくら拝んでも返事がない。石だ。見かけは慈悲深い表情をしているが、単なる石である事に気づいてしまった。


「ああ、そうか……。お地蔵様は神仏なんかじゃない。単なる石だ。偶像だったんだ」


 それに気づいた優太郎はコツコツと畑仕事を頑張った。確かに不作だったが、全国的にそうなり、おかげで野菜の価格も上がり、農家の立場も高くなっている事にも気づいた。不作も全てが悪いわけではないらしい。


 そうこうしている内にお地蔵のことなどすっかり忘れた。村のみんなも忘れてしまったので、今では本当に単なる石っぽい。


 ちなみに「傘地蔵」の作者は、あちこちで恨みを買っていたらしく、盗賊に刺されて殺されたという。


 それでも「傘地蔵」は夢のある話で子供達には人気だったが、優太郎は自分の息子には、この話は一切聞かせなかった。偶像崇拝をし、一発逆転を狙うようなろくでもない大人にはなって欲しくない。


「偶像は拝まない方がいいよ。石ころなんかには何の力もないからね」


 息子とお地蔵様の前を通りかかった時、そんな話をしていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ