ミチルの蒼い鳥
相葉ミチルは通勤電車に揺られながら考える。
今日は残業だった。今は十時だ。電車の中は酔っ払い、遊園地帰りの若者、それにミチルと似たようなスーツを着た社畜ばかり。
ふと、見上げると視線の先に中吊り広告。投資、副業、二重整形、歯列矯正、結婚相談所、英会話、転職サイトの広告に溢れている。現状はダメだ。コンプレックスを持つな。何者かになれ。成功せよ。広告からはそんな圧力が漂っていた。
「そっか。社畜のまんまじゃダメ? もっと成功しないとダメ?」
そう思ったミチルは自己啓発セミナー、パワースポット観光、占い、引き寄せの法則セミナーにでてみるが、どれもイマイチ。気分が高揚するのは最初だけ。遠い未来や新しい世界に幸せに蒼い鳥がいるような気がしたが、違ったのかもしれない。
かといって側に幸せの蒼い鳥がいるような気は全くしないけれど。
今日も電車の中吊り広告は圧力が漂っている。新しく脱毛の広告も電車の窓に張り付いているのに気づく。
たぶん、こんな広告から離れれば幸せになれそう。ミチルが不満に思う事は、たぶん後天的に広告から植え付けられたものだから。
蒼い鳥は遠くにも側にもいないらしい。まずは、広告の断食から初めてみるか。スマフォを見るのも最低限にしよう。
そんな生活を続けていると、何も焦らなくなり、幸せな気分になってきた。
現代の蒼い鳥を見つけるコツは広告とスマホの断食or減食かもしれない。
「はあ、今日もご飯が美味しい。社畜だけど、ブラックじゃないし、仕事があって恵まれてるよな」
ミチルはそう呟き、満足気に頷いていた。




