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ソルティメルヘン短編集〜めでたし、めでたし〜  作者: 地野千塩


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王様は裸だと言ってみた

 この国の王様は変だった。年中変な事を言っている。例えば昆虫を食べると幸せになれるとか、納税をいっぱいするとリターンがあって億万長者になれるとか、予防接種をする人は思いやりがあって優しい国民とか。


 王様はカルト信者という噂もあった。カルトの教義をそのまま政治に持ち込み、変な事をやっているんじゃないかって。


 僕はまだまだ子供だったけれど、そんな王様は誰も幸せにしないと思った。実際、この国の国民は常に貧乏で不幸そう。王様の言う事を守っているのに余計に不幸になっているように見えた。


 僕は子供という事を利用し、王様の後をこっそりとつけてみた。意外とバレないものだ。この国では子供は見えない存在なのかもしれない。


「嘘、あの噂本当だったんだ?」


 王様はカルトの施設に入っていった。教祖に今度の選挙でバックアップしてくれるよう取り引きしていた。逆に王様はカルトの洗脳を受け、素っ裸になって踊っていた。見たくない姿だったが、教祖に言いくるめられ、裸のこの姿が一番美しいと思い込んでいるようだった。


 以来、王様はずっと裸だった。記者の前でも裸。国民の前で演説やパレードする時も素っ裸だった。下着すらつけていないが、王様に意見できるものもいない。「裸なんておかしいですよ」なんて誰も言えない。本人はこの姿が最先端のファッションだと思い込んでいるみたい。真実は誰も言えないらしい。


「王様は裸だ!」


 僕はとうとう耐えきれず、本当の事を言ってしまった。僕の街にも裸の王様がパレードにやってきたが、どう見てもおかしい。


「王様、おかしいよ!」


 しかし、真実はなかなか伝わらない。僕は警察に捕らえられ、陰謀論者のレッテルをつけられた。


「信じてよ! 王様は裸なんだって!」


 牢屋で叫ぶが、誰も聞いてくれない。結局侮辱罪で逮捕され、五年間刑に服することになった。


 そして五年後。


 晴れて刑務所から出る事ができ、街に戻ると、政治は大きく変わっているようだった。王様は失脚し、カルトの教祖が王座についていた。


 家族や街の人は案外優しかった。「本当は前の王様が裸だって知ってたよ。でも空気読んだらそんな本当の事は言えなくてね」と。


 みんな真実は知っていたらしい。手の平返された気分。僕の五年間って何だった?


 そして再び街に王様がやってきた。元はあのカルトの教祖だった新しい王様だが、パレードは信者たちで埋め尽くされた。カルトの象徴である旗や人形を持っている信者が多く集まり、不気味な光景だった。


「私はこの世を素晴らしいものにします!」


 新しい王様がそう言った瞬間。どこからか鉄砲が打たれ、死んだ。一瞬の出来事だった。遠くで見ている僕は何がなんだか全く分からない。


 後日、犯人の男が逮捕されたらしい。カルトの二世の子供で、今の王様に一方的に恨みを募らせ、手製の銃で殺したと供述しているという。二世問題も大きく報道されているという。


 新しい王様の座は決まらない。中にはこんなカルトを潰した犯人を新しい王様にしようという声もあるぐらいだった。犯人はある意味革命家だったからだろう。


「前の裸の王様のが一番良かったよなー」

「裸ってだけだしな」

「まあ、ずっと裸っていうのはどうかと思うが」


 前の裸の王様まで求められるぐらいだった。今日も民衆は適当な事しか言わない。


「あ、君って前の王様に裸だって指摘した子供?

「まじで? よくそんな勇気あるな」

「あはは、ウチらは民衆に優しい王様だったらなんでもいいや」

「うん。正直政治とかって興味ないし。それよりスポーツとサーカスとセックスの方が楽しいわ」

「だよな! 政治よりもパンとサーカスよ!」

「あはは!」


 民衆の笑い声が響くが、僕は何も言えない。裸だったのは王様だけではなく、民衆もそうだったのかもしれない。


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