ルッキズム親指姫
親指姫は自分の容姿がどう見られるか。それは十分自分でもわかっていた。
「助けて! 汚いヒキガエルに攫われたの」
涙目&上目遣いで訴える。側にいたメダカたちは、すぐに助けてくれた。
「なんて美しくて小さなお姫様。助けてあげるよ!」
こんな事は一度や二度せはない。容姿が美しい故に気持ち悪いヒキガエルや獣、蝙蝠、クマ、その他色々と変なものに被害を受ける事が多く、そのたびに自分の容姿を生かして助けてもらっていた。
そんな親指姫は、綺麗な見た目は全てを救うと信じて疑わない。実際、自分も気持ち悪い生き物を見るだけで気分が悪くなる。
皮肉な事に、親指姫はルッキズムのシンボルとして扱われるので、本人も酷いルッキズムになってしまった。
結婚するなら絶対にイケメン。収入や立場は一切問わない。このスタンスで決めていた。
「親指姫、結婚してくれ」
今度はモグラに求婚された。モグラは金持ちだったが、醜くて仕方ない。いつものように、周囲を味方をつけ、モグラの求婚も逃げ切った。
「あら、綺麗なツバメさん。怪我をしている?」
そんな時、怪我をし、動けないツバメを助けた。なぜ助けたかというと、ツバメのルックスが良かったからだ。あのモグラみたいなルックスだったら絶対に助けない。
「ああ、親指姫! 君はなんて心優しい女性なのだ!」
もっともツバメは何か勘違いをし、泣いて感謝までしている。
「助けてくれたお礼に美しい南の国へ連れて行ってあげるよ」
「ツバメさん、本当?」
という事でツバメの好意のもと、南の国へ。そこにはイケメン王子様がいた。すぐに親指姫も恋に落ち、二人は結婚した。
その後、南の国では「親指姫」という童話が作られた。心優しい親指姫が傷ついたツバメを助け、王子様と幸せになるストーリーだった。子供達には、善行の大切さが教訓となり、南の国では愛されている童話だ。
一方、他の国でも「親指姫」はという童話が生まれたが、南の国とは全く内容が違った。特に親指姫の生まれ故郷の西の国では、ルックスの良い親指姫が純粋なヒキガエルやモグラを手玉にとるストーリーで、外見の美しさではなく、心が重要という教訓になっていた。これを読んだ子供達はいじめが無くなったという。
果たしてどちらの物語が子供にとって良いのかは謎ではあるが、人気がある事は確かだろう。
◇◇◇
「ちょっとあなた!どうしてハゲでデブに劣化しているの!? どうして人は老けるの!?」
三十年後。
南の国のお城では親指姫の悲鳴が響いていた。
あんなに美しさを誇っていた親指姫も、今やすっかり汚らしいおばさんだ。王子様もそうだ。ハゲになり、デブになり、かつての容姿の美しさは泡のように消えてしまった。
どうやら人類は老化には勝てないらしい。ルッキズムは不平等な遺伝子ガチャではあったが、人類も平等にできているのだろう。これを避けられる人は誰もいないから。人は必ず老いて死ぬ。
めでたし、めでたし。




