理解ある彼くん的王子様×自己憐憫シンデレラ
人は、誰かを助ける事によって脳内麻薬が出るらしい。救世主症候群という言葉があるが、善行は難しいものだ。いつ、いかなる時も善行そのものが正しいとは言えない。自己満足や依存になってしまう事もあるだろう。
◇◇◇
「へえ、このシンデレラという娘は、義姉や義母に虐められているんだね」
とある国の王子様は、そんな噂を耳にした。容姿は美しい娘らしいが、気になる。
王子様は誰かを助ける事が好きだった。元々第十二王子として不遇だった彼は、無能、顔も凡庸、あるのは立場だけで王宮でヒソヒソされる事も多く、軽度鬱病にかかっていた。
そんな王子様は捨てられた子猫、ホームレス、貧乏人などを助け、感謝されるのが生き甲斐になった。王宮では慈善活動も義務だが、この王子様は自らやっていた。やればやるほど脳内麻薬が出て、気分は良かったから。
という事で虐められていて可哀想なシンデレラも助ける事にした。
運良く、王宮の舞踏会にも参加してくれたので、シンデレラとコンタクトも取れた。
「そんな。私のようなシンデレラを褒めないでください。私なんか……」
シンデレラは恥ずかがり屋というよりは、気が弱いというか、自己否定感が強そうだった。
「きっも。可哀想な女のフリして同情心を集めるなよ。罪悪感で他人をコントロールするメンヘラ女やん」
第三王子様はそんなシンデレラに毒を吐いていたが……。
「そんな事ないよ。僕はシンデレラを理解するよ」
「第十二王子様……!」
「理解ある王子様と呼んでくれ。僕は君を救うから」
その後、ガラスの靴を無くしたり、紆余曲折はあったが、シンデレラとゴールイン。
王宮で何不自由にない結婚生活が始まった。めでたし、めでたし?
◇◇◇
シンデレラは王宮の自室でため息をつく。
第十二王子様と結婚したが、相手はボランティア活動に熱心で、ここにあんまり帰ってこない。顔もよく見るとブサ系だし、本当に立場だけの男。それでも第十二王子という立場は、王宮では低めだ。毎日王宮の偉い人から嫌味を言われ、虐められていた。
「結局、どこ行っても同じね。でも、私は被害者のフリして人をコントロールするのが得意だからね。いつもの通りに悲劇の被害者をやってみますかー」
シンデレラは大して嘆かない。いつものように悲劇のヒロインを演じながら、理解ある夫の愛情を吸い付くす。
「私、王宮で虐められてるの。可哀想でしょ?」
「何だって! だったら僕が虐めっ子から守るよ!」
「ええ、あなた。本当にありがとう」
影でシンデレラの侍女達はこんな噂をしていた。
「あの夫婦は似た者同士ねー」
「偽善大好きな理解ある彼くんと自己憐憫ちゃん。こんな良い組み合わせはないよね」
「こういうの何て言うだっけ?」
「割れ鍋に閉じ蓋?」
「いや、違う。共依存でしょー」
これも一種のハッピーエンドかもしれない。




