虫めづる姫君の裏面
岡野優里は女優だったが、今日も朝ドラのヒロインのオーディションに落ちた。
優里は美人だった。太い眉毛のはっきりとした顔だち。といっても女優の中では珍しくもない。演技もスタイルも普通。最近は失言や炎上もないAIアイドルも企業の評判がよく、CMの契約もなかなか取れない。
「という事で、優里。君には昆虫食女優という個性的なキャラで売っていこうと思う」
「えー?」
そんなある日、事務所に呼び出されると、マネージャーから今後の方針を発表された。
「いやですよ、昆虫食女優なんて!」
「ダメだ、もう決まったんだ」
マネージャーは敏腕だ。若手の優里は逆らえず、結局「虫めづる姫君!」という動画チャンネルを開設され、カメラの前でコオロギを食べていた。
正直とてもまずい。吐きそうだったが、どうにか笑顔で食べる。女優魂を試されている気がした。
昆虫食は政府も推し進めているらしく、こうして宣伝する事で事務所にもお金が入ってくるという。
ネットでは変な女優として炎上気味だったが、個性的な役も回ってきた。女優としては悪くない結果だが、やはり虫は美味しくない。
「コオロギパウダー、さいこう!」
こんな嘘を吐くのも慣れてきた。女優のキャラなど全部作り物。視聴者には表面的なものを鵜呑みにせず、冷静に視野を広くして欲しいと願う。
「コオロギ、おいしぃー!」
この演技力だったら、ハリウッドも狙えるかもしれないが、優里は全く嬉しくない。フルーツパフェやハンバーガー食べたい。




