しくじり浦島太郎
確か亀を助けたはずだった。それなのに、いつの間にか「竜宮城」というキャバクラで毎日遊んでいたら、病気になり、気づくと老人になっていた。
「ああ、どういう事だ……」
病院のベッドの上で浦島は頭を抱える。キャバクラで遊んでいた代償は大きく、借金もあった。おそらく病死した暁に保険金が入り、それで借金は返せるだろうが。
「俺の人生ってなんだった?」
病院には薬物やアルコール中毒者の自助グループ施設や、抗うつ薬依存者に苦しむもののリハビリ施設もあり、全く笑えない。
「そうね。お兄ちゃん。人生しくじったね。キャバクラ、酒、薬など依存性高いものにハマると必ずこうなるのよ」
「う、うう」
病院に見舞いに来た妹は辛辣だった。
「成功者の共通点は特に無いけど、しくじり人生に共通点はあるね。キャバクラ、酒、薬!」
「ぎゃー、耳が痛い!」
浦島太郎は妹の言葉に耳を塞ぐが、さらに続ける。
「あとはカルト、スピリチュアル、SNS、スマホ、整形、カフェイン、甘いものもそうね。依存性あるものと欲深いものは人生を壊す。一発逆転狙うものもね。ギャンブルもそう」
「う、うう。でも何でこの事はみんな知らないんだ?」
「みんな綺麗なものしか見たくないからね。成功者の美談しか見たくないから」
妹と話していたら、ふと何か閃くものがあった。もしかしたら、自分のしくじった過去をみんなに話したら、誰かの役に立つのでは?
という事で浦島太郎は自分の過去を話すようになった。これが意外と好評で、闇バイトに応募しそうになっていた若者がちゃんと学校に通うようになったと聞いた時は、涙が出るほど嬉しかった。
しくじった人生も全部が無駄ではないかも!
そう思うと元気も出てきて、病気も治ってきた。浦島太郎はすっかり老人になってしまったが、まだまだだ。まだ人生が終わったわけじゃない。残された時間は全てしくじり人生を語り、未来ある若者の為に使おうと決めたら、不思議と収入もあり、借金も全額返済できた。




