昨今のアリとキリギリス
僕はアリ君。一生懸命コツコツと働いていた。仕事は食糧の運搬。力は使うが、働いている自分が大好きだった。
「おお、アリ君。お仕事頑張ってるね!」
「やあ、キリギリス君。君も仕事をしたら?」
一方、友達のキリギリス君は絵を描いたり、音楽を作ったり、遊んでばっかり。
ついつい僕はキリギリス君にこう言った。
「冬になったら、食糧無くなるよ。働いたら?」
「おお、そうか。それは困る!」
という事でキリギリス君も働き始めた。
が、キリギリス一族も労働市場に参入してきたため、僕らアリ族の取り分も減ってしまう。皮肉なことに労働者の価値が減ってしまったのだ。
「だから我々はわざと働かないアリを作っていたのに!」
アリ族の長は怒ったが、キリギリス族の方が財力を持っている。権利も上だった。
そんなキリギリス一族は「ラクチン派遣会社」という会社を作り、アリ族の労働も中抜き&搾取をし始めた。
結果、キリギリスは遊んでいる上に紹介料として食糧もゲットとし、今まで以上に優雅そうだ。最近はAIで音楽や絵を作り、芸術活動すら機械任せ。
「キリギリス君! 働きなよ! ズルいよ!」
「えー、派遣会社の社長として働いてるけど?」
そう言われるだけだった。
結局、現場で働くアリ族だけが損をし、「働かないアリ職」は倍率がものすごい。働きアリと言いつつ、本心は仕事をしたくないのだろう。
「働かないアリなんてズルいよ! 働かないアリも働いてよ!」
僕達は仲間の悪口を言いまくり、アリ族も全く足並みが揃わず、生産性も低くなった。今では子供も生まれないので、アリ族は滅亡するだろうと言われているぐらい。
危機感のあるアリ族は独立起業しているそうだが、それでも真面目に働くアリは2割。8割は働かないそうだが、その方が組織は上手くいくらしい。
ちなみにキリギリス族は様々なロボットを開発し、現場の仕事は全くやっていないが、かなり豊かになっているという。結局、僕の仕事も機械化され、消えてしまった。アリ族は滅亡寸前で、今年の冬を越せるかもわからない。
「キリギリス君、アリだよ。冬になったけど、食べ物がなくなったよ。分けてくれないかい?」
「えー、お前、俺のことニート、飯を食うなっていっぱい悪口言ってたじゃないか。何で君にご飯を分けてあげないといけないの? 何も考えずに、未来も予想せずに働いてた君が悪いのでは?」
僕は何も反論できない。
「でも、可哀想だね。ベーシックインカムという制度を作ってあげるから、それで生き延びて」
「ほ、本当かい?」
助かった。僕はホッとしたが。
「その代わり、僕の演奏をずっと聴いてね!」
キリギリス君はバイオリンを披露した。
「うわ、下手だなぁ」
ずっとAIに頼っていたため、キリギリス君の演奏は聞くに耐えなくなっていた。僕は耳を塞ぐ。
「毎日コツコツ働く事は一概に良いとも言えないけど、音楽はちゃんと毎日練習した方がいいね!」
僕は耳を塞ぎながら叫ぶが、キリギリス君は自分の演奏に酔ったままだった。