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初めての定例会 前編

 いよいよ、定例会の日が来た。起きてすぐに半身浴、ストレッチ、声出しをしてから朝食に向かう。


 皆、今日のことで頭がいっぱいなのだろう。定例会は午後からなのだが、殆ど誰も喋らずにさっさと自分の部屋や稽古場に戻って行く。


 そして私も、走り込みや、曲の最終確認をする。


「おはよーさん。今日はいよいよ初お披露目やな。何か不安とこあるか?」


 時間ギリギリまで、細かいところの調整と確認を行う。


 そろそろ身支度の時間だ。


「じゃあ、俺はここまでやけど、ちゃんと見てるからな。お前の物語は、まだ始まったばかりや。何かあったとしても、凹むなよ!他人は関係ない!」


 不思議だな。出会ってまだ数日だというのに、もう家族みたいに思える。私の、一番の味方だ。


「はい!行ってきます!」


 そして、準備を済ませると、いよいよ会場へ。


《ディーバ候補者にお知らせです。これより、定例会を始めます。速やかに、大ホールへお集まりください。》


 みんな続々と集まってくる。


 席はステージ順、その中でレベル順に並ぶこととなっている。当然、私の席は一番神から遠い端。


 アザミが横に並ぶ。小声で会話を交わす。


「やっほー。なずなの発表、楽しみにしてるからね。」


 こういう緊張の場で話せる相手というのは、心強いものだ。


「ありがと。アザミのおかげで一歩踏み出せたんだ。お互い、頑張ろうね。」


 一番神に近い席にいる、あの女性は誰だろう。候補者の中で一番大人っぽく、儚げなオーラを纏っている。


「ねぇ、あの一番前の人って、、、」


「桔梗さんね。神に最も近いと言われてる人。普段はあまり表に出てこないの。」


 へぇ。そういや、ちゃんと全員のプロフィールを見てなかった。


「何で出てこないの?」


「コアスキルは薬学なんだけど、研究熱心すぎて食事も研究室でとるんだって。定例会でもあまり発表はしないみたい。とにかく殆ど話したことないし、謎が多い。」


 なるほど。見るからに知的な感じだもんなぁ。後で挨拶とか行った方が良いのかな。


《定刻になりました。》


 大きな光の中から、神が現れた。


 と同時に、全員が跪く。私も慌てて真似をした。


「よぉ。俺のディーバ候補者たち。息災だったか。頭をあげよ。


今日は日頃の鍛錬の成果を見せてもらう。目一杯、楽しませてくれよ。」


《それでは、これよりコアスキル披露に入ります。発表の順番はこちらです。》


①アザミ②なずな③山吹・蘭④桃⑤すずらん⑥牡丹⑦椿


 2番目か。上位ステージの人の後だとやりにくいし、かといって最初は緊張するから、という配慮をしてくれたのかもしれない。


 山吹と蘭は一緒に発表するってことなのかな。コラボもアリなのか。


 アザミが舞台に移動する。漫画や小説を、どうやって発表するんだろ。


 舞台上に大きなスクリーンが現れた。音響や光と共に、アザミの描いた物語が展開されていく。文字が流れてきたので小説かと思ったら、所々で漫画に切り替わる。


 まるで、物語の中に入り込んでいるようだ。紙面で読ませて貰った時は純粋に面白いなと思ったが、迫力が違う。


 「アザミ、凄いじゃない。」


 アザミはずっと神を見つめている。一方神は、全く表情が変わっていない。どういう感情?こんなに凄いのに?


 アザミの発表が終わり、私の番となった。アザミとすれ違いざまに、ハイタッチした。


「すっっごく良かったよ!感動した!」


「頑張ってね!」


 どうしよう。緊張で震えてきた。皆見てる。私、やっぱり一人じゃ何も、、、


(発表の場でも、俺がずっと側におると思えよ。)

(誰よりも神に届けたいって、想いながら歌うんやで。)


 いや、私は一人じゃない。師匠も一緒だ。底辺女の底力、見せてやる。


 神、あなたの声が忘れられなくて、あなたに私の声を届けたくて、私はこの場へ来たんだ。


 真っ直ぐ見ながら、歌い出す。やはり、神は無表情のままだ。


 私を、、、もっと、見て。私の名を、その声で、呼んでよ。


 歌に感情が自然と乗ってくる。そう、、、これだ。椿とセッションした時の感じ。


 あやしいところが何箇所かあったが、何とか歌い終わった。ちゃんと、届いたかな。


 やれるだけのことはやった。後は他の人の発表を見るだけだから、楽しんで、勉強させていただこう。


 次は、山吹と蘭の番。まずはアザミの時と同じように、スクリーンで、蘭の絵画が流れてくる。


 1枚の絵の世界から、また別の世界へと入っていく動画だ。そして、ステージ上にも実際の絵がセッティングされている。


 そして最後の絵の世界からまたどこかへ、と思ったらスクリーンが上がり、一気に光が集まった。


 山吹の手がけたのであろう、衣装を纏った二人が現れた。


 二人は完全に作品の一部となっていて、絵画、衣装、山吹と蘭が合わさって一つの世界を創り上げている。


 神はというと、微笑んで二人を見ていた。このレベルでやっと表情を動かすのか。


 次に、桃。一見、街のようなセットだが、登れる仕様の壁や、賽の目に棒が組まれた建物など、全て技の披露のため計算して作られている。


 フライングや武具を使った術なども登場し、それはもう、アクション映画のようだった。


 舞台上に一人しかいないはずなのに、心臓に響くほどの速さ、重量感が、それを感じさせない。


 最後の決めポーズは、やはり神の方を見つめながら。そして神はまた微笑み。


 ここまで見たところで、自分が恥ずかしくなってきた。皆、お金を払うレベルのものを出してるのに、自分のは一人よがりで退屈な発表だったかも。

 

 次はすずらん。舞台上で3分クッキング的なことをやるのだろうか。


 それぞれの前にテーブルとお皿が用意される。そして、小さなプロジェクター?


「これから皆さんを、魔法の世界へお連れしまぁーす!」


 舞台にコック帽を被った妖精達が現れる。可愛い!プロジェクションマッピングを使っているのか。


 すずらんが舞台に再び現れ、


「みんな、いくよー!そーれっ!」


 テーブルの上が光ったと思ったら、妖精がケーキを運んできてくれた。ケーキの周りを妖精が飛んだり跳ねたりしている。


「さぁ、今度はソース作りだよ。妖精達、戻ってきて〜!」


 舞台上で妖精達が木の実を集めてソースを作っている。出来上がったら再びすずらんが、


「せーの、えいっ!美味しいソースがかかったよ。皆さまどうぞ、召し上がれ」


 手元に注目すると、ケーキにソースがかかっている。完璧な演出だ。数秒でも遅れたりしたら、グダグダになるだろう。


 神は、特別なメッセージが添えられたハート型のケーキに舌鼓を打ち、笑顔になっていた。

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