表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/19

マエストロ

 まずは、もう一度やってみよう。コアスキルが決まっていない今、私の練習部屋というのはないため、何とか施設周辺で良さそうな場所を探す。


 屋外の、少し離れた高台なっている所に向かう。ここなら、誰にも迷惑をかけないだろう。


 ここへ来て初めて歌った時の感覚を思い出す。自分の気持ちを解放するように、表現したい。すぅっと息を吸い、歌い出す。


 やっぱり楽しいが、何かが違う。それに、人に聞かせられるレベルじゃない。そういえばスキルを磨くって言っても、何も分からないのに、どうやってやるのだろうか。


《コアスキルを磨くには、マエストロが必要です。コアスキルとして設定後、マエストロがギフトとして与えられます。


サブスキルの場合はコアスキルを学ぶ者から学ぶ、または参考書や動画などの学習材料から学ぶことになります。》


 マエストロって、AIみたいなものなのかな。他の候補者達を訪ねた時は、作品やスキルの凄さに夢中で気が付かなかった。


《コアスキルを設定しますか?》


 このまま、勢いで設定してしまっても良いのだろうか。定例会まで日が無いし、下手くそな状態で評価されるぐらいなら、何もしない方がマシなんじゃないか。


(どの道底辺だって言うのなら、好きなことやれば良くない?)


 そうだ。せっかくアザミに背中を押してもらったのに、始める前からヒヨってたってしょうがない。


「うん。決めた。私のコアスキルは、歌にする。」


《候補者なずな コアスキル 歌 設定します。なお、コアスキルを変更する場合は、神からの許可が必要となります。宜しいですね?》


 アザミは簡単に変えられる風に言ってたけど、それなりの理由で説得しなければいけないのか。続ける覚悟が必要だな。


「はい!」


《実行します。

候補者なずな コアスキルを歌に設定中。

設定しました。


次に、候補者の性格、能力から、ふさわしいマエストロを探索します。取得中。

完了しました。》


 パネルから光が溢れ出す。


「どうもー!君がワイの生徒かぁー。えらい地味な子やなぁ。まぁ、これからよろしゅう!」


 え。思ってたのと違うんだけど。コアスキル、歌で設定したんだよね?


 歌姫って感じのお姉様を想像してたのに、関西弁のお兄さん、、いや、おじさん。。。


《あなたの性格から、最も適任だと思われるマエストロが与えられました。》


 この、売れないバンドマンみたい人が?


「・・・大丈夫なんですか?私、ロックとかパンクとかじゃなくて普通の、もう少し品のあるというか。」


「おいおい!俺に品が無いみたいやないか!心配すんな、この俺に任せとけ。今日から師匠と呼びなさい!」


 やっぱり安易に決めるんじゃなかったかな、、、。いや、中身はAIなんだから、凄い先生かもしれないし!


「じゃ、まず一曲歌ってみぃ。」


 もう一度、先ほどと同じように歌う。


「なるほど。大体分かった。」


 何を言われるのだろうか。私としては、最初に歌った時と明らかに感覚が違う、この違和感をまずは何とかしたいのだが。


「走れ。この敷地を3周。」


 はい?何ごとも体力なんだろうけど、それにしても歌の感想とかアドバイスとかないのか。という気持ちが顔に出ていたのだろう。


「あのなぁー。まず、歌うための体が出来とらんねん。棒立ちしてんで、はよ。」


 運動は大の苦手なのだが、やるしかない。


 何とか走り切る。息も絶え絶えで、今日は何も出来そうにない。


「師匠、、、もー無理。。。」


 その場に倒れ込む。


「お疲れさん。次は腹筋。」


 その後も、トレーニングが続いた。ハッキリ言って、地獄だ。私はこの世界に来て初めて歌った時のあの感覚が忘れられなくて、コアスキルを歌に選んだのに。


「よし、まずはこんなもんやろ。午後からは別のトレーニングやるで。」


 お腹がぺこぺこで力が出ない。

食事は時間が決まっているわけではなく、各自のタイミングで食堂でとることになっているようだ。誘い合わない限り、先日のように大勢が集まることは少ないのだろう。


 食堂には蘭と桃もいた。一人でゆっくりしたかったので、端の方で食べていたのだが、蘭が気づいたようだ。


「あら、なずな。こっちに来たら?」


 無視するわけにもいかないので移動する。


「どう?コアスキルは決まった?」


 新人の世話係として気になるのか、単なる興味なのか。さっき決まったばかりなので、何だか言いづらい。


「はい、一応。でも、上手くやっていけるかどうか。定例会まで時間もないのに。」


「へぇー。何も特技無い割には、案外すっと決まったんだね。しばらくフラフラしてるんだと思ってた。」


 桃の言葉はやっぱりトゲトゲしいが、表情を見るに、敵意というよりは思ったままの言葉が出る人なのかもしれない。


「桃は、早く決まって良かったね、って言いたいのよ。マエストロとは上手くやれそう?」


 はぁ・・・。それも心配の種なのだ。


「それが、かなり変わってるというか。練習内容も、ちょっと期待してたのと違っていて。」


 桃がすかさず言葉を放った。


「初心者が期待って、何?まずは一言一句漏らさず吸収するぐらいの心持ちでやりなよ。ここにいる皆、必死でやってんだから。」


 しまった。ちょっと本音で喋りすぎたか。


「桃なりのエールだよ。でも、何かに取り組む上で大事なこと。あとはマエストロといかに二人三脚でやれるか。特に最初はね。」


 蘭がフォローをしている間に、桃は行ってしまった。


「私もやること山積みだから、お先に。じゃあね。」


 蘭もそそくさと戻った。


 全てを吸収するつもりで、マエストロと二人三脚か。午後からの練習に活かそう。


「午後からは呼吸法と発声練習。俺の真似をせぇ。」


「はい!」


 それからは師匠に言われた通り、必死に食らいついた。


「じゃ、最後にもいっぺん、歌ってみ。」


 歌い出しから、最初と全然違ってラクに声が出る。


「何か、、、最初に歌った時の自分と身体が違うみたいです。」


「せやろ。ホンマに違うからな。もう、お前は今朝までの自分と違うんやで。これからも毎日、進化し続ける。」


 進化という言葉に、心が躍る。今までに無い達成感。私、もっともっと上にいけるかもしれない。


「ありがとうございます!明日からも、よろしくお願いします!


それから、相談があって。最初に椿さんの伴奏で合わせた時と、何か感覚が違って。楽しいんですけど、こう、ぐわぁぁーってこないんです。」


 師匠がしばらく考える。


「んー。それについては、多分おいおい解決すると思うで。今はあんま気にせん方がええ。」


 そういうものなのか。とにかく、明日からの練習も頑張ろう。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ