コアスキル
次は椿のところへ。気品があって、性格も良くて、気に入られない訳がない。
廊下を進むと、綺麗な音色が聞こえてくる。部屋に到着すると、ピアノを弾く椿の姿が。言うまでもなく、美しい。こちらに気がつき笑顔をくれたが、そのまま弾き続ける。
とても、心地が良い。そのまま身を委ねてずっと聴いていたい。1曲終わったところで、声をかけてくれた。
「いらっしゃい。私はいつも、ここで楽器を演奏してるの。」
見渡すと、他にも琴、ヴァイオリンなど、色々な楽器がある。
「色んなとこ回って疲れてるだろうけど、触ってみたい楽器とかあれば、遠慮なく言ってね。」
触ってみたい気もするが、楽器って繊細そうで、遠慮してしまう。楽器や譜面を見て回っていると、
「ねぇ、良かったら、歌ってくれない?」
突然の提案に驚いてしまった。
「いや、歌うなんて、、、私、得意じゃないですし」
何より、恥ずかしい。
「弾き語りじゃなく、他の人に歌ってもらいたかったんだ。誰も居ないし、少しだけ。ね?」
親切にしてくれる数少ない人だし、断れない。
「音痴ですが、私で良ければ。」
良いのだろうか。綺麗な音色に泥を塗るような気分だ。
「ありがと。この曲、歌える?」
この曲は。通勤の時に良く聴いてたなぁ。
「はい!生前、良く聴いてました。」
椿の顔がパッと明るくなる。
「良かった。じゃあ、私の演奏に合わせて、お願いね。」
緊張しながらも、歌い始める。時折見つめ合いながら、息を合わせる。
とても気持ちが良い。カラオケとは違う。私の歌は決して上手い訳ではないのに、椿も楽しそうに演奏してくれる。歌うって、こんなに楽しかったっけ。
「良い感じ。初めてにしては、息ピッタリだったし。またやりましょう。ところで、自分のコアスキル、決まった?」
「いえ、まだ。」
得意なことなんて何も無いし、皆の凄さを見たら、余計に何をすれば良いのか分からなくなる。強いて言えば、面倒事を避けるスキルぐらいか。
「色んなことをやってみるっていうのも良いと思うよ。コア以外の分野も磨いてる子が殆どだし。」
正直、自分が何か鍛錬したところで、意味あるんだろうかと思ってしまう。とてもじゃないけど、彼女達みたいになれるとは思えない。
「ね。神に会いたいと思わない?」
「えっ?」
なぜ急に神の話を。そりゃ、もう一度あの声が、類の声が聞きたいとは思うけど。でも神は類と全然違ったし。
次はいつ、会えるのかな。
「ふふっ。神に認められたいって気持ちがあれば、自ずと行動できるよ。」
椿が笑顔で送ってくれる中、音楽室を後にした。割り当てられた寮の個室で、少し休もう。
そもそも、まだ全てを理解しきれてない。神って何者なんだろう。椿は、神のことやエデンのこと、色々知っているんだろうか。
とにかく1日色々あって疲れた。死んだ後まで疲れるなんて。
部屋がノックされた。
「はい。」
見たことない少女がそこに居た。
「こんばんは。初めまして。あなたが今日新しく来た、なずな、だよね?私、アザミ。良かったら、皆で一緒に晩ご飯どう?」
可愛いといえば可愛いが、他の候補者みたいな圧倒的な美女感とかオーラは無く、素朴な感じの子だ。
「初めまして。ありがとうございます!行きます!」
一緒に食堂まで移動する。
「敬語なんていいよー。私はレベル12で、こないだやっとステージ2に上がったとこなんだ。一緒に頑張ろ!アザミって呼んで。」
下位ステージの子もいるのか。なんだか親近感。
「そうなんだ。じゃあ、アザミ。よろしくね!」
ここへ来てから、初めて友達になれそうな子と会えた。とても心強い。
食堂には既に皆集まっていた。
「来た来た。アザミは自己紹介済んだわよね。山吹はまだだと思うから、軽く挨拶したら?」
蘭に勧められ近寄る。ふわふわの三つ編みに、森ガール系の服装で、西洋人形のような顔立ちの子だ。
「山吹。よろしく。」
無愛想で、感情が読めない。
「なずなです。よろしくお願いします。」
チラッとこちらを見ると、すぐにそっぽを向いてしまった。
「メンバーも増えたことだし、今日は張り切ったんだぁー!洋食中心にしたよ。」
すずらんが料理を運んでくる。その後皆で夕食をとり、解散した。部屋に戻り、今後の事を確認する。
「案内人、明日のスケジュールをお願い」
目の前にスクリーンが現れ、カレンダーが表示される。
《明日は、山吹、アザミを訪問。
新規メッセージが1通届いています。》
メッセンジャーが開く。アザミからだ。
[明日は楽しみにしてるね。待ってるからねー♪]
親しくなれそうな人ができて良かった。
《なお、5日後に全体定例会があります。》
「定例会って、椿さんの言ってた、、、じゃあ、神に会えるのか!」
それまでに、自分のコアスキル見つけられるんだろうか。