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怪奇小説集・朧

付喪神

作者: とらすけ

 長く大事に使った道具には魂が宿るという。そういう言い伝えがあったように思う。私は高校入学の時に両親が買ってくれた腕時計を今でも大事に使っている。機械式の自動巻きの腕時計だ。特に高級な腕時計という訳ではないが愛着があり、メンテナンスに出しながら使用していた。

 今では、ソーラー充電や電波式の腕時計もあるが私はこの機械式の腕時計が気に入っており使い続けている。今どき、()()±20秒なんて信じられないだろう。クオーツだと()()±5秒位だ。電波なら狂ったりしない。うっかり時刻を合わせ忘れると、あっという間に5分くらい狂ったりするので、出勤前の時刻合わせが私の日課だ。


 この日も朝6時の時報に合わせ出勤した。そして、一日の業務が無事終わり会社を出た私は駅までの道を歩いていた。仕事がすっきり終わった後の帰り道は気持ちがいい。鞄を持つ手も軽く感じる。私は途中の自販機で缶コーヒーを買うと喉に流し込んだ。自分へのご褒美だ。駅に着いた私はちょうどホームに滑り込んできた電車に乗り、空いていた席に腰を降ろす。なんだか今日は良いことがありそうだなと、気分も良かった。

 乗り換え駅で電車を降り腕時計を見ると、いつも乗る乗り換えの電車まで、まだ時間がある。


・・・ベーグルでも買って返るか ・・・


 私は駅ナカ2階のベーグル専門店で久しぶりに妻の好きなベーグルを買って帰ろうとエスカレーターに乗り目的のお店に向かう。シナモンやきな粉のベーグルを購入し腕時計を見ると、まだ時間があるので本屋に寄る事にした。


・・・今回のNewtonの特集は何かな? ・・・


 興味がある特集の時には購入している雑誌だ。表紙を見てパラパラと中を捲る。


・・・”超ひも理論”、面白そうだな ・・・


 私は電子マネーで会計を済ますと腕時計を見た。そろそろエスカレーターで降りて行けば丁度いい時間だ。私は購入した雑誌を鞄に入れ下りのエスカレーターに乗った。そして、駅ナカのフロアからホームに降りて行くと、愕然とした。いつもはホームに大勢の人が待っている筈なのに閑散としている。列車案内の掲示を見ると、私の乗ろうと思っていた電車は既に発車していて、次の電車の案内が表示されている。私はしばらく何が起こったのか分からなかったが、ホームの時計を見て理解した。私は腕時計を見た。やはり、遅れている。今朝も時刻合わせをしているので本来この時間では狂う筈がないのだが、それに進む事はあっても今まで遅れる事はなかった。私は何かを感じた。あの電車に私を乗せたくなかったのか……?

 ここで私が思ったのは、私が乗る筈だった電車が脱線や衝突等の事故を起こしてしまうという想像だった。長年愛用している腕時計に付喪神が宿り、わざと時間を遅らせ危機から救ってくれたというものだった。しかし、事故の放送など何もなく次の電車が普通にホームに入ってくる。私は、その電車に乗り無事に終着駅に着き、自宅までの住宅街の中の夜道を歩いていた。すると、妻からスマートフォンに着信があった。


「今、何処っ! 」


 何だかずいぶん慌てている妻に私は事情を訊くと、背中に冷や汗が流れ震えがきた。


「今、家の前の通りでナイフ持った人が暴れて何人か刺されて警察が来て大騒ぎになってるの あなた、何時もだったらこの時間にそこを歩いている頃だから…… 今日は大通りから回って帰ってきた方が良いわよ 」


お読みくださりありがとうございます。

自宅近くで起こった事件を参考に書いてみましたが、このお話しは勿論フィクションです。

感想頂ければ嬉しいです。

よろしくお願いします。


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